先輩

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 やや静かな(まち)を一台の自動車が走っている。  そして、その車は、薬局の目の前の有料駐車場に停車した。女性を残して、男性だけが店内に入り数分と経たないうちに、ビニール袋片手に店内から出てきた。  「懐かしいな。あの店もこの町も全く変わってないな」  「そうですか」  「そうだよな。お前は、こないだ卒業したばかりだもんな。そういえば、今寒くかないか。暖房きってるけど」  「そんな大して時間も経ってないでし、大丈夫です」  「なら良かった。家まで送ろうか」  「いえ、大丈夫です。もう家着くと思うので」  「ここわりと駅に近いよな。家賃高くないか」  「そうなんですか。契約とかは、親に任せていたのでわかりません」  「家賃の引き落としとかで気づかない」  「普通は、家賃って自分で払うものなんですか」  「俺も普通がどうなのかが分かるわけではないけどさ。俺はさ、社会人なら自分で払うのが当たり前だって思ってきたし、実家に仕送りするのも当たり前だと思ってきたからな」  「そうなんですか」  「そういうのも知らないでここまで生きてこれたのは、羨ましいよ」  「そんな羨ましがられるような人生じゃなかったですよ」  「そうだよな。どんな恵まれているように思えても、苦労してる人だっているもんな。まあ、とりあえずお大事にな」  「はい。ありがとうございます。それとこれ払います」  「いいよ。大したことないからさ。そんなことより、今日は早く休みな」  「ありがとうございました」  彼女は、彼の車が出たのを確認してから、数分かけて自分のアパートに入っていった。その彼女の手には、さっきのビニール袋があった。  彼の優しさは、ほんの少しだけ警戒(氷の壁)をわずかに()かした。  それから、彼女は、二日間仕事を休んだ。それが出来たのは、上司の気遣いとまだあまり責任が重くない新人だったからだろう。
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