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あれから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
氷漬けにされた彼女を、一人の男性が抱きしめた。
その体温が、彼女の氷を融かしていく。彼女の瞳から、涙がこぼれた。その温かさに触れて氷がとけて流れだした。その勢いは、徐々に弱くなっても、そう簡単に止まるものでもない。彼は、それが止まるまで彼女のそばを離れなかった。
「なんで電話でなかった」
「先輩もきっと私のこと知ったら、いなくなっちゃうような気がして。それに、先輩を頼ったらさらに言われるような気がして。怖くて。恐かった」
「ごめんな。けど、あんな動画、気にしなくたっていい。お前は、なにも悪くない」
「私なんてかばったら、先輩まで傷つくことになってしまう」
「そんなこと。どうだっていい。お前が傷ついているのを放置してた方が辛い事だから。気にすんな」
「ありがとう」
そう言った彼女の顔を虹がかかったような笑顔とは、いかなかった。まだ、彼女の表情は、晴れなかった。
それでも、もう彼女は寒くなかった。冷たくなかった。
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