記憶

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記憶

 二人が初めて話したのは、九年前のことだった。  当時、彼女は高校二年生で、彼は大学2年生だった。彼女は、彼が通う大学のオープンキャンパスに参加していた。彼は、学生アルバイトとして彼女にキャンパスの案内をしていた。  しかし、そのことをきっと二人は覚えていない。  もしかしたら、もっと前にもあっているかもしれない。  彼にとって一番古い彼女の記憶は、おそらく大学三年の時に参加したサークルの新入生歓迎会のことだろう。その時の彼女も、凍っていた。その氷漬けになった彼女の姿は、まるでダイヤモンドように美しかった。だから、あの場にいた誰もが彼女に釘付けだった。たとえ、振る舞いも言動も視線がいくら冷たくとも、彼女に惹かれる人はとても多かった。いや、きっと彼女は凍っていたからこそ、美しく惹かれたのだろう。  しかし、彼だけは違っていた。彼だけは、その彼女の姿には、惹かれなかった。彼は、その冷たい視線と身勝手な言動に呆れていた。きっと周りから、もてはやされて有頂天になっているようで気に入らなかった。彼女の態度は、彼を苛立たせていた。だから、周りの友人が、いくら彼女を褒めたとしても、それに同意することなんてなかった。彼女のことを彼は、よく見ていなかった。知ろうともせず、決めつけていた。
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