記憶

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 彼女にとって彼との出会いは、大学三年の春休みのことだった。  彼女には、友達がいなかった。彼女が友達と呼べるのは、今までたった一人しかいなかった。彼女のことを守ってくれた幼いころのたった一人の少女を除いて存在しなかった。  大学生活は、友達をいかにつくるかに関わってくる。それでも、彼女は友達をつくろうとしなかった。周りとの間に氷の壁を築き上げていた。もしかしたら、彼女はその氷の壁を溶かしてくれる人物と友達になりたかったのかもしれない。たとえそうだとしても、伝わることはなかった。  したがって、彼女には友達と呼べる存在の人はいなかった。  彼女は、彼女に好意を持つ人物に、「課題とか手伝おうか」と声をかけられることもあった。しかし、彼女は、その申し出に応じることはなかった。彼女は、そういうことをするのが嫌だった。  だからこそ、彼女は、彼女なりに一生懸命に取り組んでいた。彼女の成績は、可もなく不可もなくという感じだった。  そんな中で、三年生になった彼女には、就活が迫っていた。  しかし、彼女には、将来について何も希望が持てなかった。将来何をしたのかイメージを持つことが出来なかった。だから、答えられなかった。進路についての質問に答えられなかった。  そして、彼女は、OB訪問に行くことを勧められた。  その訪問先の先輩が、彼だった。  彼女にとってそれは、彼との初めての出会いであった。  そして、将来に対して夢も希望も持っていなかった彼女は、流れるままにたった一度相談に乗ってもらっただけの彼が勤める会社に入社することになった。
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