後輩

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後輩

 彼女は、社会人になってもその氷の壁を壊そうとはしなかった。  それどころか、彼女の氷の壁はさらに厚くなっていた。彼女は誰とも関わろうとしなかった。  新人研修でいくら周りが歩み寄ってくれたとしても、彼女は必要最低限にとどめた。それは、何かの罪に問われることはない。それでも、周りにはそれをよく思わない人もいた。それは、彼女が営業部希望だったから、余計に不満を持つ人が増えてしまったのだろう。  しかし、彼女がそれに気づくことはなかった。彼女は、入社試験においても、研修成果に関してもかなりの成績を修めていた。そして、十五年ほど間多くの人を惑わせてきた彼女の涙は、強かった。だから、彼女は営業部に配属された。彼女は、彼の後輩になった。  営業部エースである彼の後輩になった。それは、あらかじめ決められていたようなものだった。彼女は、彼の後輩になるために、営業部を希望したのだから、当然の結果であった。  彼女は、知っていたのかもしれない。潜在的に理解していたのかもしれない。自分の氷を融かしてくれるのは、彼であることを知っていたのかもしれない。  きっと彼女は、心の底ではみんなと仲良くしたかったのだろう。本当は壁なんて築きたくないだろう。  それでも、傷つかずにいるためには必要なことだった。  仮に傷ついたとしても、冷やしておけば広がらずに済むから。彼女は、融かそうとしなかった。  社会人になれば、学生よりも守ってもらえないのだから、当然のことだった。自衛は、何よりも大切なことだった。
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