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彼女が入社する前日。すなわち、三月三十一日の夜のことだった。まだ、段ボールの残る部屋には、三人の若者が集まっていた。彼らの前にはいくつかの空缶が置かれていた。
「なあ、あの子さ。新歓来てた塩対応のあの子、後輩になるんだろう」
「まあ、そうだけど。それがどうした」
「うらやましいよ」
「そんなら、もらってくれよ」
「無理だろ。お前の代わりなんて荷がおめーよ」
「おめえ、おめーって何くだらないこと言ってんだ」
「やっと笑った。お前さ、今日引っ越し祝いで来たっていうのにずっと暗い顔してるからさ」
「仕方ないだろ。明日から、また仕事なんだから。しばらくこの部屋で過ごさないといけないしさ」
「それでもお前はできるだろう。仕事終わってからだってやれるよな。俺には無理だけどさ。それに、あの子いるんだろ。見れるだけで幸せじゃないか」
「そうだろ。いくら仕事できないとしてもあの子はいいよな。でも、待てよ。一か月間の研修があるんだよな」
「そうだけど」
「もしかして、配属先も決まってない」
「まだ確定は、してないけど。彼女の希望通り営業で内定らしい」
「ふーん」
と言うと、箸をすすめた。
「急に興味なくすなよ」
そう言うと、この部屋の主である彼も一度止めていた箸をすすめた。
彼らには、明日からだって仕事がある。そう、休んでいて良いわけではない。
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