後輩

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 繁華街にある築二十年を超える雑居ビルのワンフロア。そこに入る焼き肉店は、普段よりもにぎやかだった。そこまで広くない店舗は、大学生で埋め尽くされていた。この店舗は、今日とある大学のサークルが貸し切っていた。  そんな暑苦しい店内の中で、ただ一点とても冷え切った場所があった。そこへ、多くの人が集まった。夏休みの部活動で休憩時間になると、扇風機の周りに多くの部員が群がるように、彼女の周りを多くの先輩が取り囲んだ。しかし、彼女は、誰も寄せ付けようとしなかった。一定の距離を保ち続けた。  彼女のすべてが冷たかった。それでも彼女の周りは、だんだんと熱せられていった。耐性がない彼女は、それを嫌がった。それでも、周囲の人たちは、あつい視線を送るのを止めなかった。  しかし、そこに一人だけ、熱い視線を送らない人物がいた。彼女と彼女に群がる人々を、彼女と同じように冷ややかな目で見ていた。その人物こそが、彼だった。彼は、その姿に一年の頃の自分自身を重ねていたのかもしれない。もしくは、喧嘩別れした元カノと重ねていたのかもしれない。だからこそ、それに群がる友人や後輩をよく思えなかったのだろう。  「あの新入生、可愛くない」  「それな。少し生意気な感じもするけど、そこがいいよな」  「お前もそう思うだろ」  「俺は、そうだとは思わない。ああいうやつは、きっといつか痛め見るだろ」  「経験者は語るってか」  「もういいだろ。ほっといてくれよ。俺は、改めてるんだし」  「そうだな」  「でも、出会った時のお前よりはましだと思うけどな」  「そんなことはないだろ。まず、俺は、先輩に奢ってもらっている立場で文句なんて言わないし。挙句の果てには自分で払うからって一人だけ高いの頼むこともしないから」  「それは、お前が単に金がないからじゃね」  「勝手にそう思ってろ」  「そうだ。二次会いくよな」  「いくだろ」  「当然」  「今日はパス」  「やっぱり今日機嫌悪いだろ」  「この後バイトだから」  「飛んじゃえばいいじゃん」  「お前は働いたことがないから知らないだろうけど。そんなのできるわけない。こっちは生活かかってるし、そんなことで信用失くしたくないから」 と言うと彼は席を立った。  「あんまマジになるなよ」  「ごめん。考えてなかった」  「いいよ、俺なんて庇わなくてさ」  彼がいなくなるっても、彼らは話すの止めなかった。そこに近くにいた同期の女子たちも混ざって来た。  「でもさ。あの子も二次は来なそうだよね」  「絶対、帰るでしょ」  「そうだよね。案外帰り道一緒でってなりそうだよね」  「わかる。ああいうのがうまくいくものだよね」  「なんか似てるもんね」  「やっぱ、そう思うよな。所詮、同族嫌悪でしょ」  「そう思うよね。なんか懐かしい気持ちにならない、あの子見てると」  「だよね」  「追いかけてみる」  「いいかもね」 と二人の話題で盛り上がっていた。
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