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そんな中、俺の仲間たちはパートナーを見つけることに精一杯になり、”跳ぶ”という行為を軽視し始めた。
俺たちの存在理由を捨てる愚かな行為に俺は憤りを感じた。
俺たちの存在理由とは? 愚問だ。それは”跳ぶ”ということ。
この地球上で唯一と言って良いほどに”跳ぶ”という行為に特化した肉体と頭脳を持つ存在。それが俺たちバッタだ。
ランドマン(人間)という生き物がいる。
彼らは「この世界でもっとも成功した生物」などと自ら述べることができるほどの愚かな生き物だ。
俺が知る限り最も愚劣で憐憫。そして最も残忍な生き物。彼らは食べるためではなく、楽しみで生き物を殺すことができるこの世の悪を凝縮したような存在なのだ。
ランドマンに換算すると俺たちの”跳ぶ”能力は200倍。
距離にすればランドマンが10m程度しか飛ばないのであれば、我々バッタはランドマン換算にして2000mほどの跳躍能力を有することになる。
そのような優れた能力を持つ俺たちが跳ばないというのは神を冒涜する行為。いや、それ以上に俺たちの存在理由を無にする行為だ。
「そうは言ってもお前。秋になって、冬になったら……」
「……。だからどうした?」
「いや、だから……」
「俺は自分のアイデンティティーを放棄するつもりはないぜ」そう言って俺は今日も、そして明日も跳び続けるだろう。
のびろ、のびろ。俺はまだまだ跳べる。
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