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 最近はあまり眠れていなかった。部活とか次のテストとか、そんなありがちな悩み事で頭の中をいっぱいにして、なかなか次の日を迎える気持ちになれなくて。私の活力は勉強机を照らす青白い光にそのまま吸われていた。寝不足のせいだろうか、通学路を歩いていたというのに、私は道に迷ってしまった。  いや別に、普段はこんな間抜けなことしない。気分転換にいつもと違う道を通っただけ。来た方角は覚えておいた。だけど、フラフラ歩いて、工事中の道を避け、たむろするJKに踵を返したところで自分の居場所が分からなくなってしまった。本当はコンビニで聞くなりその辺の人に聞くなりしたいけど、どちらも見当たらない。スマホは中学校へは持ち込めないので、手元にない。困った。溜息をついて腕時計をみると、5時41分を指していた。夕焼けがとても綺麗なので余計にイライラした。  ようやくお店らしいものを見つけたのは6時になる頃だった。洋風の小綺麗な一軒家に見えるが、看板がついている。看板はやたら古くて、文字が書いてあるのは分かるが日本語か英語かもわからない有り様だ。ゆっくりと深呼吸をして重い扉を開けると、まるで異世界のように美しい、それでいてどこか不安になるような光景が広がっていた。物に溢れた店内を夕陽が照らして、窓枠の飾りが不安定に揺らいでいた。
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