蝉の声が止んだ時

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雑木林の出口、振り返ると、遥か後ろの薄闇の中、あの子はどたどた走ってた。 戻って走り方教えてやろう。 さっきまでの涼しい微笑はどこへやら、必死な彼女になんだか笑えて「あそこまでだから、もう歩こう」並んでゆっくり歩いた。 「走るの苦手なんだね」 彼女はぜいぜい、頷くのが精一杯。 雑木林を抜けると僕はスラムみたいな団地の方へ、彼女は一軒家のニュータウンの方へ、背を向けて歩いた。 翌日みんなであの場所に居ると、彼女。 僕は知らん顔した。 「女と遊んでる」 そんな噂はたちまち広まってしまうから。 彼女はがっかりしたみたいに帰って行った。 何日かそんな日が続いてもう夏休みも半ばを過ぎた頃、僕がひとりであの場所に居ると彼女が来た。 僕は慌てて「ここじゃみんな来るから」と、僕だけの秘密の場所に彼女を連れて行った。 廃墟。 誰の何かはわからない。 けど、何年も誰も来ない事は知っていた。 窮屈なボロ長屋。 いつもやかましい兄弟と母親。 たまに帰って来て、酒のんで出来の悪い兄弟をハエ叩きを撓らせて打つ父親。 その父親の作った借金のせいで金に困った母親の浮気相手。 借金取り。 ここにひとり、そんな事から逃れられた。 そこで僕は、あの家を、家族を抜け出した後の自分の暮らしを、シミュレーションしていたのかもしれない。
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