蝉の声が止んだ時

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寄って来る子猫たち。 「わあ!猫ちゃん!」 彼女は破顔した。 僕はここに3匹の捨てられた子猫を匿っていた。 ミケ、ブチ、トラ。 あまりに嬉しそうな彼女に「猫、好き?」と聞くと 「大好き!かわいいもん。でも、ウチペットダメだから…」と、少し暗い顔をした。 「じゃあさ、好きな時ここに来たら良いよ。僕と君、ふたりの秘密基地だ。いいね?誰にも教えちゃダメだよ」 彼女は大きく頷いた。 「僕は仲島治。オサムって書いてハルって読むんだ。東小の6年だよ。君は?学校違うよね?城南小とか?」 「はるくんか。わたしね、あきなんだよ。緒川亜希。はるくんわたしのお婿さんになったら、ハルのオガワだね」 「なるもんか!」 笑った。 「わたしね、東京から夏休みの間こっちの親戚の家に来てるんだ。5年生だよ。青葉台の青葉塾あるでしょ?あそこ叔母さん家だから。午前中はいっつも勉強してるんだ。そういう体で来てるから」 ああ、僕ん家はお金ないから行かせてもらえないや。 言えずに黙っていた。 何故だかあきも少し暗い顔した様に思えた。 劣等感からだろうか、「僕は来年から中学生だから、色々と大変なんだよ。ここも今年いっぱいかもしれないな」と、先輩風を吹かした。 あきは「わたしもこっち来られるの、来年が最後かも。来年まで来れない?せっかくふたりの秘密基地にしてもらったのに。」 「うーん、考えてみる」 まんざらじゃなかった。 初めて会った時から惹かれ始めていた。 幼すぎて、良くわからなかったけれど。 「わたしがママで、はるちゃんパパね。この子たちはわたしたちの子供」 そういうあきのあのいたずらっぽい笑顔に内心嬉しくて、けど「はるちゃんって!僕はあきって呼び捨てだ。年上なんだから」 ツンツンした。 あきはまた、あの笑顔してた。
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