蝉の声が止んだ時

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残りの夏休み、僕は毎日午後はふたりの秘密基地へ行った。 あきも毎日来た。 あきはこっそり小遣いで買ったキャットフードを持って来てくれた。 僕はいつもおかかごはんだった。 僕は近くの木や建物の屋根に登って遊びたかったけど、あきはママゴトみたいな家族ごっこをしたがった。 そんな風にしてるうち僕はいつしか彼女に心を許し、家に金がない事、早く大人になって自由になりたい事を話していた。 おかかごはんしか持って来ないの変に思ってるかもしれないし、学校も違うからなんだかありのままを話せる気がした。 「中学が3年、高校が3年、6年は我慢しなきゃならないよ。」 あきは少し真面目な顔になって「わたしははるちゃん羨ましいよ。ウチのお母さん心配性だから、時々自分が居ないみたいな気持ちになるの。習い事とか色々させてもらえばもらう程、本当にしたい事でも親がどう思うかな?って考えて、言えなくなって。」 「だからさ、わたし大人になったらはるちゃんみたいに優しくて自由なひとのお嫁さんになって、この子たちみたいにかわいい子供たちに囲まれて暮らしたいの。」 「僕は芸術家になるんだ。音楽や文学、絵画。誰かを感動させて、お金を貰うんだ。」 「うん、はるちゃん出来るよ!初めて会った時、きれいで優しい人だって思ったよ。」 いつしか僕は、あきの望む優しいパパ像を自ら演じてママゴトを楽しんでいた。 夏休みは終わりに近付いていた。
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