蝉の声が止んだ時

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お別れの日。 夕立。 僕らはボロ小屋へ駆け込んだ。 濡れちゃった。 おもむろにあきは、Tシャツを脱いだ。 「はるちゃん、わたしのからだ、変じゃないかな?」 やかましかった蝉の声は消え、雨音に変わっていた。 直視出来る筈もない。 まだ15時前、夕方みたいに薄暗い。 「もう、ちゃんと見て!恥ずかしいし、寒いよ。」 ほっぺを膨らませた。 「ごめん、無理だよ。女子のからだなんて見たことないし、それに暗くて…」 しどろもどろする僕の首をグイッと、瞬間、雷鳴、稲光。 見た。 それは、きれいな白い肌。 彼女が何を気にしてるのかわからなかったけど、ただ、ただ、きれいに白く光っていた。 あきは目を伏せていた。 その白い頬を赤くして。 すぐに目をそらし「なんともない。なんともあっても、なんともない」 僕も体操着を脱ぎ、今度は彼女の首をグイッ。 ほら見て。 僕ら、変わらない。 まだ僕ら、そんなに変わらなかった。 それから服も濡れてるし、すぐに服を着せちゃダメな気がした。 何より寒いだろう、本能的に彼女を抱きしめた。 彼女はひんやり冷たかった。 「あったかい、はるちゃん、あったかいね」 その言葉にふたり我に返って離れて、冷たい服を着た。 嘘みたいに晴れた。 また蝉が鳴き出した。 僕らなんだか手を繋いで、それでも顔を見れず、黙って雑木林の入口まで。 サヨナラも言わず別れた。 明日のお別れも、来年の約束も出来ず。 「きれいだよ」の一言も、伝えられないまま。 それから僕らが会う事はなかった。 春と秋が混じり合った短い夏は、終わってしまった。
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