蝉の声が止んだ時

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中学では神童と持ち上げられた。 成績はいつも全校10位以内、クラスではトップ争い。 勉強をした事がなかった。 興味ある事は先に教科書読んで暗記してたし、居眠りしてても先生の声は聴こえてた。 一年生の時の担任は「お前は人の上に立てる人間なんだから、みんなと同じ意識でいちゃダメだ」 人の上ってなんだろう? 僕はいつでも、みんなより下に居るのに。 二年生の時の担任は母親に「この子は天才肌なんじゃないでしょうか?」 違うよ、僕はみんなが努力と思う事を楽しめるだけなんだ。 普段なんにも出来ないから。 大人はみんなステロタイプを押し付けて知らんぷり。 僕が何をして、どうなりたいかなんて、見てない。 教育者? 恥ずかしくはないのかな。 お仕事なんだろうけど。 そして僕も母親も、そのお客さん。 そんな時いつもあきを思い出した。 自分が居ない。 今なら良くわかる。 僕には歪んだ微笑を浮かべて彼らの期待に応えるしかない様に思える。 苦しかったんだ。 ウチみたいに貧乏じゃないから、きっと幸せなんだろうと思ってた。 そんな風にあきとの不確実な約束が僕の心に満ちて溢れた中二の夏休み、僕はふたりの秘密基地へ行った。 そこは更地になっていた。
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