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むしろシカトされてんのは俺だ!
風間に肩を軽く叩かれた広瀬は怯えた猫みたいに丸くなった。そして風間はパッと手を離して軽く謝った。
「ごめんごめん!広瀬くん、秋山くんには話すけどいいよね?」
「……ああ」
「ボラ部のみんなは知ってるんだけど、この通り広瀬くんは極度の対人恐怖症なんだ」
「あ?何だそりゃ」
高所恐怖症とかなら聞いた事あるけど、そんなの初耳だ。この通りって言われてもピンとこねぇよ。
「または社交不安障害って言うのかな。周りの人の目を気にしてしまって思うように振る舞えないんだ。あがり症の人とか良くいるけど、それの酷いやつだね。広瀬くんの場合は人が怖いらしいんだ」
「…………」
風間が説明してる間、広瀬はずっと下を向いていた。外見に似合わない性格してんだな。
「でも広瀬くんは前向きなんだよ♪どうにか治したいって事でこのボランティア部に入ってくれたんだぁ!ボラ部は結構たくさんの人と関わる事が多いから最適だもんね!」
「なぁ、さっき俺と同じクラスって言ってたけど、やっぱりいねぇよ広瀬なんて」
「広瀬くんは特別に別の教室で授業を受けているんだよ。だからクラスの人達は誰も会った事がないんだよ」
「そんなのあるのかよ!?」
「ふふ、葵くんの力で特別に可能になってるんだよねコレが」
「生徒会長か!あの人どんなけすげぇんだよ」
「まぁ広瀬くんの努力もあるよ?別の教室で授業受けられる代わりに常にトップの成績を維持する事と、あと期限もあったよね。夏休み終わったら秋山くん達と同じ教室に戻らなくちゃいけないんだよね」
「……そうだ」
「へー、そうなんだ」
「そこでだ秋山くん!君の初仕事!人嫌いの広瀬くんを教室に馴染ませてみよう♪見事にクリア出来れば、秋山くん自身の条件もクリア出来るんじゃないかな?一石二鳥だね♪」
「俺が!?どうやって!」
「それは秋山くんに任せるよ。そんな訳で今日のところはここまで!解散ー!」
なんて無茶苦茶な!俺だって広瀬とか言う奴とは初めて会うってのに、面倒くせぇ事押し付けられちまった!
あーまぁクラスには早川も直登もいるし何とかなるか?とにかく少しでも早く馴染んでもらう為に明日からでもこっちの教室に来てもらわねぇとだな。
もう部活は終わりらしいから広瀬に声かけてみっか。
「おい広瀬、一緒に帰ろうぜ」
「…………」
「おい?」
広瀬は黙って座ったまま反応もしなかった。なんだよこいつ!人が声かけてんのに!
桐原がニヤニヤしながら入ってきた。
「あー、貴哉が広瀬をイジメてるー」
「イジメてねぇよ!むしろシカトされてんのは俺だ!」
「まったく貴哉は分かってねぇなぁ。広瀬震えてんじゃん」
「はぁ?」
広瀬を見ると、確かに少し震えてる?そして何より顔色が悪いぞ!何だよいきなり!
「広瀬落ち着け。大丈夫だから。な?」
「はぁはぁ……」
「広瀬くん大丈夫?秋山くんの事初めてだし、ちょっと疲れちゃったのかな」
とうとう風間まで入ってきた。何だよみんなして広瀬広瀬って。小学生じゃあるまい。何か馬鹿馬鹿しくなってきたからほっとこ。今日は戸塚との約束もあるしな。
「んじゃその怖い俺は先に帰るぜ!ふん」
「あ貴哉待ってー」
俺が一番最初に部室を出て、その後を桐原が追うように出て来た。
「付いて来んなよ」
「広瀬の代わりに俺が一緒に帰ってあげるよ」
「いらねーよ。お前派手だから知り合いだと思われたくねぇし」
「俺は貴哉と知り合いだと思われても平気だぜ♪」
「てか広瀬と帰ってやれよ。お前らには心開いてんだろ?」
「あらあらヤキモチかしら?貴哉ってば可愛いとこあるのな♡」
「いちいち苛つかせる奴だなお前」
「きっと貴哉なら広瀬の事なんとか出来るよ」
「…………」
「広瀬って初めこそあんなんだけど、良い奴だからさ。だからみんな応援してるんだ」
「あっそ。俺には関係ねぇけどな」
「貴哉」
「あーもううるせぇなぁ!」
後ろから付いて来ながらダラダラと話かけてくる桐原がウザくて、一回キツく言ってやろうと振り向いた瞬間、風が吹いて桐原の赤い髪が揺れた。そして綺麗に整った顔が現れて自信ありげな笑みを浮かべてこっちを見た。
何だこいつの目、何か吸い込まれそうって言うか、目が離せない……
「何だよ、お前」
「あは!惚れちった?」
「いや、それは無い。けど、お前って綺麗な顔してるんだな」
「いきなり口説くなよ!ドキッとしたじゃんか」
「口説いてねぇし。俺用あるから先行くぞ」
「待って貴哉!連絡先交換しよ?」
「はぁ、仕方ねぇな」
いつもなら断るけど、何でだろ?あっさり連絡先を交換してしまった。
桐原伊織。出会ったばかりの赤髪の男。こいつは良く分からないけど、嫌な感じがしねぇ。出会いは最悪だったけどな。
それから桐原は付いて来なくなった。
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