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頼んだぞオバチャーン
広瀬を引きずるように保健室を目指した。悔しいが俺じゃどうにも出来ねぇ。
途中で授業が始まるチャイムが鳴った。けどそんなの気にしてる場合じゃねぇ。
「秋山……」
「広瀬?大丈夫か?」
少し落ち着いたのか、広瀬の声が元に戻った気がした。覗き込むとまだ顔色は悪かった。
「ごめん……秋山がせっかく、連れてってくれたのに……」
「気にすんじゃねぇよ。てか謝るのは俺の方だ。無理させて悪かった」
「っ……」
俺が謝ると、広瀬は首を横に振った。
「ごめん、なさい……俺がこんなだから……迷惑かけて……」
「広瀬……」
広瀬は泣いていた。その場で立ち止まり、俺にもたれ掛かったまま涙を溢していた。泣かせたのは俺のせいだ。隣で泣く広瀬を見て胸が苦しくなった。
俺がもっと広瀬の事を考えて行動していればこんな事にならなかったんじゃないのか?
広瀬にとって第二会議室から出る事は良いことじゃなかったんじゃないのか?
「秋山、俺……嬉しかった……」
「は?」
「朝会いに来てくれて……いっぱい話してくれて……」
「…………」
「初めてだった……そんな奴……」
「……うん」
「だから、秋山ならって……思って……でも、迷惑かけた……」
「バカだなお前は!迷惑だなんて思ってねぇよ。それと、男が簡単に泣くんじゃねぇ」
「……だって」
ハンカチなんか持ってねぇから仕方ねー俺のワイシャツの裾で涙を拭いてやった。その行為に驚いたのかビクッと反応して後ろに下がった。
「今回のは俺が悪かった。もっと広瀬の気持ち考えるべきだったんだ。だからもう泣くな!」
「うんっ」
それから俺は広瀬を保健室に連れて行った。大分落ち着いたけど、今は保健のオバチャンに任せようとした。
俺は一人教室に戻ろうと思うのだが、広瀬が俺のベルトを掴んで離さなかった。
「あらあら、広瀬くんは甘えん坊さんなのね」
「って呑気な事言ってる場合か!俺は教室に戻らねぇといけねぇんだよ!」
保健のオバチャンにのほほんとした口調で言われて突っ込むが、広瀬は断固として俺を離さなかった。
「でもねぇ、広瀬くんが行かないでーって言ってるわよ?」
「広瀬!授業終わったらまた来るからここで大人しくしてるんだ?いいな?」
「やだっ」
「てめぇ!悪い子か!」
「ならこうしない?秋山くんの担任の先生には私から話しておくから、一時間だけここに居なさいな。大丈夫。広瀬くんの事は先生達みんな知ってるから」
オバチャンの提案に広瀬が激しく首を縦に振った。まぁそう言う事ならいいけどよ。
「じゃあ私出掛けて来るから後はお願いね秋山くん」
「おう!頼んだぞオバチャーン」
オバチャンを見送ってベッドに座ると、隣に広瀬も座った。すっかり懐かれちまったな。
「とりあえず、お前が落ち着いて良かったぜ」
「秋山……」
「何だよ?」
「一緒に居てくれてありがとう」
「おう。気にすんな。結果的にサボれたし」
ベッドに仰向けに寝転がって天井を見つめる。
このまま寝ちゃいたい気持ちだったが、さっきの事件の事もあったし、さすがに広瀬をほったらかしにするのは気が引けた。
「なぁ、広瀬がさっきみたいになったらどうすればいいんだ?」
「……薬飲む」
「薬あんのか!早く飲めよ!」
「パニックになった時に飲むやつ。病院で貰ってるんだ。鞄の中にあるんだけど、教室に置いて来ちゃった」
「そっか!じゃあ今度はポッケに入れておけよ!あ、一個俺も持っとくわ」
「うんっありがとう秋山」
「あのさ、広瀬は辛くねぇの?俺と居て」
「……え?」
「こいつ強引だなーとか口悪いなーとか思わねぇの?」
「思わない。だってそれが秋山なんだろ?」
「まぁそうなんだけど」
「秋山が言ったんじゃないか。俺は俺のままでいい。秋山は秋山のままだって」
「へー、俺の言った事覚えてんだ」
「勿論だよ。秋山かっこよかったぞ」
「だろー?俺って良い男なんだよー!あ、惚れるなよ?俺には面倒くさい性格の彼氏が……あー!早川忘れてた!」
「彼氏……」
「やべーな、さっき早川も見てただろうし、俺広瀬の事ギュッてしたよな?うわー絶対怒ってるよー」
「ごめんな、俺のせいで」
「ハッ!違う違う!早川がうるさいだけ!まぁ上手く言って仲直りすりゃいっか」
「彼氏、いるんだ」
「おう、同じクラスだぜ。本当は二人で広瀬を迎えに行くつもりだったんだけど、直前で怒らせちゃってよ」
「…………」
「何黙ってんだよ?」
「彼氏がいるなら俺邪魔になるんじゃないか?」
「別に邪魔じゃねぇよ。早川はどう思うか知らねーけどな」
「そう言えばさっき桐原さんに抱き締められてたけど、桐原さんとは何もないんだよな?」
「ねぇよ!あ、さっきはありがとうな!助かったぜ」
「うん。秋山が困ってたから」
「広瀬ってさ、普通に良い奴だよな」
「え」
「初めは何だコイツとか思ったけど、話してみたら全然良い奴じゃん。ほんと勿体ねぇよ。俺なんかより勉強出来るのにさ」
「勉強は、一人の時間が多いから暇つぶしでやってるだけだ。俺は秋山が羨ましい」
「俺何かを羨ましがるなんて広瀬ぐれーだぞ」
おかしくて笑うと、広瀬は何かを言いたそうにモジモジしてた。
「何?言ってみろよ」
「あのさ、秋山」
「んー?」
「俺と……と、友達になってくれないか?」
「は?」
予想外だったから一瞬思考回路が止まった気がした。
え?何つった?友達になってくれないか?
てか広瀬ってば耳まで真っ赤だし。
「い、嫌なら大丈夫だからっ」
「あはは!広瀬おもしれー!てか俺はもうダチだと思ってたけどな」
「嘘……」
「てかそういうのって言わなくてもなってるもんじゃね?気の合う奴とか、あ、広瀬は知らねーのか」
「うん」
「なら教えてやる。今度からはそんなのいちいち聞かなくていいからな?友達ってのは勝手になるものだ。こうやって話したり一緒に居たりしてりゃなってるんだ」
「そ、そうなのか?」
「あー、笑った。なぁ広瀬って下の名前なんて言うんだっけ?」
「……数馬」
「んじゃ数馬って呼ぶわ。その方がもっと仲良さげじゃね?」
「嬉しい!俺も貴哉って呼ぶ!」
パァッとキラキラした笑顔を向けられて眩しかった。軽く天然記念物な数馬はそれはそれは愉快な奴だった。
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