黒の英雄

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 黒血者、と名付けられた。血液が真っ黒の人間。初めて確認されたのは大きな病院だった。そこからあっという間に情報が拡散されて、世の中に血液の黒い人間がいるとニュースが取り沙汰される。  面白半分に自分で皮膚を傷つけて血を見てみたら黒かった。そんな者が東南アジアで続出した。  昔は確かに赤かったのに突然黒くなっている。何かの病か、悪魔の生まれ変わりか、人類の進化か。フェイクニュースが飛び交って世界は大混乱となった。 「皆さん落ち着いてください。血液が黒いのは化学反応によるものです」  世界各地で同じ結論に至った者たちが同じような情報を発信した。しかし発展途上国などではその情報は到着するのが遅く、しかも何を言われているのかわからなかった。専門用語が多かったのである。 「結局何なの、血液が黒くなる理由」  ユナが夫であるサロに問いかける。サロは大学を卒業しているので情報の内容は理解しているが。貧困地で育ったユナは勉強していないためわからない。 「そもそも血液が赤いのはなんでっていうところからなんだけど」 「血液の成分で一番多いもの。水を除いてなんだと思う?」 「えっと?」 「ほら、貧血の時にこれを摂取しましょうってよく言うだろう」 「あ、鉄?」 「そ。血液の中身である赤血球。これにはヘモグロビンっていうものが含まれてるんだけど、これが鉄をくっつける性質があるんだ」 「つまり?」 「要するに、血液って赤サビの色」 「えー!?」  鉄くずが錆びているものをイメージしてしまう。あれのことだと言うのかと目を丸くした。 「体の中にサビが回ってるってこと?」 「鉄屑とは違うから大丈夫だよ。赤血球って酸素を運ぶ役割なんだ。でもね、金属って酸素と結合して化学反応を起こしやすい。鉄が錆びるのは酸素とくっつくから」 「そう、なの。でも何で黒くなったのかな」 「そこがわかってないんだ。黒血者が検査しても何も異常がないんだって。鉄が多いわけでもない」 「え……でも、もともと体にあるものだからそんなに心配する事は無いよね? 早死にとかしないよね!?」 「……ユナ、まさか」  ユナは妊娠九ヶ月目だ。貧困出身であるユナは体を売って金を稼ぐ以外の方法がなかった。私を買ってくれませんかと声をかけたのがサロ。それに対して「家政婦として雇うのでどうだろう」と誘われてついていった。  共に過ごすうちに絆が深まり、いつの間にか恋愛感情となり結婚した。
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