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感情論だけではなく、きちんと敵を観察して最適な答えを導き出せている。まずまずの合格点に内心サロは微笑む。表情には全く出さないが。
「で?」
「あいつらを倒せば弾薬と武器も手に入る」
必死にそう訴える。綺麗事ではない、今自分がやりたいことを父に。論理的思考は父の方がはるかに上だ、かわいそうだからという理由だけでは絶対に首を縦に振らないだろう。
そこで黙り込んでしまったユウに、サロはとうとうフッと笑う。
「あとひと押し」
「え」
「男心をくすぐること言ってみろ」
そんなことを言われたのは初めてだ。だが、これこそが父の本心なのだとわかりユウは満面の笑顔を浮かべる。
「俺はこの世と同じ正義なんて嫌だね! 黒い血を持つ俺が英雄になって、世界の正義をひっくり返してやる! 女の子を助けるのは正義だよ!」
わしゃわしゃ、と頭を撫でる。
「よく言った。行くぞ!」
「うん!」
涙でぐちゃぐちゃになった視界。何度拭っても涙が止まらない。生きるためには逃げなければいけないのに。泣いている場合ではないのに。親に売られて捕まったが、なんとか逃げてきた。
信じていた、母を。昨日も頭を撫でてくれたのに、早く寝なさいと笑っていたのに。金を受け取る母の笑顔は吐き気がするほど気持ち悪かった。命を狙われる恐怖よりも、そちらの方が辛い。
「あう!」
足に激痛が走り転ぶ。見れば足が血で真っ青に染まっていた。とうとう弾が当たってしまった、もう終わりだ。
「手間取らせやがってクソガキ!」
恐ろしい剣幕で怒鳴られる。びくりと震えたが、気がついたら叫んでいた。
「うるさいド下手クソが! 豆鉄砲でも撃ってろチェリーども、ママのオッパイはこっちにはねえよ!」
「クソガキィィ!?」
「オーライ、拷問が先だ」
どうせ殺されるのだ、弱気に命乞いなどごめんだ。そんな思いから睨みつける。
「あはは! おもしれーコイツ!」
「気に入った、お嬢ちゃん」
突然両脇から声がした。気に入った、と言った男は大人だが笑ったのは同じ年くらいの男の子だ。
「え」
体中が黒い。黒は酸化した鉄か銀だと聞いたことがある。血液だけのはずだ、メタルヒューマンの特徴は。
「ちょい待ってな、チビ!」
その声と同時に二人が動き、ハンターの怒号が響き戦闘が始まる。だがあっという間に決着がついた。実力の差は明らかだ、強すぎる。
「あ、え、だれ?」
今まで見たことない、体中に金属が結合している者。真っ黒な手を差し出され、迷わず手を取っていた。
「お前と同じ、普通の人間だよ」
これはどこにも記されていない、後にメタルヒューマンたちから「黒の英雄」と呼ばれる者の誕生のお話。
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