のびるわかめ

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 岬は親友の光の家に同級生達を集め会議を開くことにした。光は何でうちの家と文句を言っていたが、岬の家には複数人が入れる手頃な部屋がない。光の家は広く、ちょうどいい空き部屋があるのだ。メンバーは同じ部活の友人(あかり)と野球部の松野、一年の時に東京から転校してきた爬虫類好きの鈴木。駄目元で谷崎も呼ぶことにした。谷崎は前髪が長く物静かでオカルト系の本ばかり読んでいるためにクラスの数人から電波と呼ばれているが、いつも冷静で良いアイデアをくれる。  皆を待つ間光にジップロックに入れて持ってきたワカメを見せたら、「別に、普通のワカメだけど」と答えたので、岬はそれを手で伸ばしてみせた。最初ポカンとしていた光はすぐにお腹を抱えて笑い始めた。 「何だこれ、変なワカメ!!」  光がこんなに笑ったのをかなり久しぶりに見た。このワカメはもしかしたら、人の心を掴む可能性があるのではないかと岬は思った。  10時前には谷崎以外のメンバーが集まった。光と灯だけならともかく男子達も来るとあっては、引っ込み思案の彼女は余計に来にくいかもしれない。諦めて岬は会議を始めることにした。  議題は『のびるワカメを売り出そう!』だ。今朝のワカメ騒動は既に、同じように祖父母がワカメ仕事をしている松野と灯の耳にも入っていた。2人も危機感をおぼえていたらしく、想像以上にに真剣に考えてくれた。 「そのワカメって、普通に食えるのが?」  途中松野が訊いてきた。岬は光に許可をとりキッチンへ向かい、ジップロックに入れて持ってきた1Mはあるワカメを水洗いして塩気を取り、包丁で芯と葉に切り分け、さらに細かく切ると鍋で二分ほど茹でてみた。それをもう一度水につけて冷やし、皿に盛り酢醤油をかけたのを一人一人試食してみた。 「うめぇ!」 「うん、美味しい」 「確かにうまいな、むしろ普通のワカメよりも美味いぞ」  松野、光、鈴木が声を上げた。 「だべ? こんなに美味いのに、売れないのは勿体無いべ!」  岬の言葉に松野が言った。 「俺、この間映画で観だんだ。キッチンカーで旅してキューバ料理を売る人たちの話。その真似して、キッチンカーでワカメ料理売ったらいいんじゃねえが?」 「いい考えだけど、そうなると大量のワカメが必要だろう? キッチンカーも……。どっから仕入れるんだ?」  鈴木が尋ねた直後、背後から「漁協……」と声がして皆驚いて振り向いた。いつの間にきたのか谷崎が立っていた。しかもちゃっかりワカメを食べている。 「ワカメは漁協に、協力して貰えばいいがも。うちのお父さん漁協の総務課長だから、頼んだら力貸してくれるがも」 「じゃあ、谷崎さん説得頼むよ!」岬に頼まれた谷崎は恥ずかしそうに俯き、「断られだらごめん」と謝った。    
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