困惑の恩返し

　俺は邑田(むらた)和真(かずま)、25歳。工場勤務の平凡な独身男。特に趣味もなく、ボロアパートと工場を行き来する日々だ。昼休みには近所の公園で気分転換をする。
　いつも通り、コンビニでパンを買って公園にやってきた。石畳の通路を歩いていると、風船を持った小さな女の子が俺の前を横切った。女の子は風船を見ながら歩いていて、石畳の出っ張りにつまずいてしまった。その拍子に、女の子の手から風船が離れた。

「あぶない！」

　俺はとっさに風船を左手でつかみ、右手で少女を抱えた。運よく風船も少女も助けることができ、それを見ていた周囲の人たちからの称賛の拍手が鳴り響いた。
　その後、ベンチで昼食をとり、工場の仕事に戻り、帰宅した。いつものルーティンだ。
　疲れ切っていた俺は、夕食にカップラーメンを食べた後うたた寝をしていた。コンコンという音が聞こえた気がして、目を覚ました。耳を澄ませてみると、またコンコンと聞こえてきた。玄関のドアだ。

「こんな夜中にいったい誰だ？」

　ドアを開けると、黒いワンピースを着たロングヘアのかわいらしい女性が立っていた。