11人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「……フリーダ？ ……アーダン……？」
そこにいたのは２人の仲間の姿だった。アーダンはすぐに王子へ駆け寄り、フリーダは私の側に来た。
「どうして……ここが」
「呆けてる場合じゃないわよ！ 天井が崩落しかかってるの！ ほら立って！」
目の前に出された手をつかんで体を起こしてもらったけど、なぜかフリーダは不敵に微笑んだ。……待って、２人が今ここにいるということは──。
「クールぶっていてもやっぱりまだ１８歳。あんたの泣き叫ぶ姿、最高だったわ。マリクー！ってね」
カーッと顔が熱くなった。き、聞かれていた！ いったいどこから！？
「王子、気がつかれましたか？」
「王子！」
アーダンの声にはっとして王子の方を見る。薄っすらと瞳が開く。王子は辺りをうかがうとすぐに私の目を見つめて微笑んでくれた。
「よし、時間がない。まずは、３人であの犬みたいな怪物を──」
「……いや、アーダンとそしてフリーダはこのまま王子を王宮へ連れていってほしい」
「ティナ！ 何を言ってるんだ！ 君も一緒に」
「王子。その状態では、戦えません。それに、こんな巨大なフォヴォラを放っておくわけにはいかない。私が、怪物を倒します」
「ダメだ！ 手傷を負っているのは君も同じじゃないか！ 危険過ぎる！」
３つ頭が吠えた。私の方を計６個の目が真っ直ぐに見ている。どうやら標的として認識されたらしい。
「わかってます。だからこその作戦です」
「しかし──」
「王子！」
私は、初めて王子に向かって声を荒げた。翡翠の瞳をじっと見つめる。
「優しくしないでと言ったはずです。ここは戦場。王子には、適切な判断を求めます。それに、どうか私を信頼してください」
もう時間がない。微笑みを一つつくり、大丈夫だと強調する。
王子は、意を決したように口を開いた。
「いいかティナ！ 君は、絶対に生き残らないとダメだ！ 僕の命令はただ一つ！ 君が生きて僕の元に帰ること！ そうでなければ──」
激しく踏み鳴らす足音と次々と瓦礫が落下してくる音で、その先の言葉はかき消されてしまった。
２人が王子の横に並ぶ。アーダンと、そしてフリーダが私を見て頷くのを確認すると、慣れ親しんだ剣を握り締める。
突然敵が歩みを止めた。中央の顔が口を大きく開け、中から焔色が見えた。
目の前に落ちてきたもはや岩のような瓦礫を後ろに避けると、反動で大きく跳び上がる。剣を両手で持ち直すと、猛スピードで向かってきた火球に刃を当てて弾き返す。着地と同時に一気に加速した。
狙いは、首。高く跳んで頭上からの攻撃も可能だが、あれだけ目があれば簡単に捕捉されかねない。身動きが取れない状況で今のような攻撃を受ければ、身が灼かれてしまう。
ここだ。
顎下に潜り込んで跳び上がる。だが、予想に反して金属にでもぶつけたような高音が響いた。
全ての目がこちらを睨みつけた。３つの頭、それぞれから炎と水と雷の塊が放出される。
なんとか地面を転がり、砲撃をかわすと後ろへと大きく跳んでフォヴォラと距離を取った。
「……硬い」
頭に違和感を感じて見上げれば、割合小さな岩石が落下してきていた。剣を振り上げれば、真ん中に亀裂が入り、私の体を避けて地面に落ちていく。
瓦礫が落ちてくるスピードが増している。こうして悩んでいる間にも崩落は進んで行くだけ。
砂ぼこりが薄くなってきたところで再び３色の砲撃が襲ってくる。体を捻ってかわすと、３頭の犬が悔しそうに唸り声を上げた。
あれは、おそらく犬のコピー。だから唸り声は威嚇。そして、次の行動は──。
王子の笑顔が頭の中に浮かんだ。そうだ。王子との約束は守らなければならない。だから、私はここで死ぬ訳にはいかない。
……あの力を使えば。
剣を鞘へと戻すと、左手をゆっくりと地面に置く。地面に置いた手から黒い光が発生した。決して使うまいと決めていた、私の血の中にある咎人の力だ。
神の祝福がない咎人に紋章は使えない。けれど、咎人は本来10あった神の力の一つを奪ったと言う。
それが創り出す力。フォヴォラを生み出す力。呪われた力。
でも、王子は言ってくれた。私は、私だと。
「私はティナ・アールグレン。王子の秘書官だ」
咎人の力は怪物を創り出す力。でも、それを違う形に。
願いとともに地底深くからつかみ取ったそれは、暗闇の中においても白く輝く巨大な一振りの剣だった。
最初のコメントを投稿しよう！