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扉は開いていた。窓もカーテンも閉じられ暗闇の中だが、異様さはすぐにわかる。
荒らされている。本棚は引き倒されて本が床に乱雑に投げ捨てられており、テーブルは脚が折れて食器類の破片が無残に散らばっている。何よりも強い血の匂いがする。
「! 大臣!?」
ベッドの下に動く人影を見つけて駆け寄ると、その人物は呻き声を上げながら伸ばした私の腕に縋り付いてきた。
「ティナ……ティナ、アールグレンか……うぅ」
部屋の主であるノルドマン防衛大臣その人だ。
「お怪我は? 今すぐ人を──」
防衛大臣の手が弱々しく離れていく。掴まれた腕にはべったりと血が付いていた。
「王子が……うぅ、あいつ……あの咎人が……」
「大臣! 王子の居場所を!? やはり、咎人の仕業なのですか?」
大臣の顔が暗闇でもわかるくらいに苦しそうに歪んだ。
「騙されたのだ……うぅ……アールグレン……お前を……」
私を秘書官の座から引きずり降ろそうとしたということ? そんなこと、今はどうでもいい。
「それより王子の居場所を!! 城内にはまだいるんですよね!?」
「……そうだ……私は王子を連れて……謁見の間へ……そこから……そこから通じる……避難用の通路に」
噂に聞いたことがある。城の緊急時に王族が逃げる通路を設けていると、なるほど防衛大臣ならば知っていてもおかしくはない、か。
「行きます! 大臣の助けも呼びますから!」
「待て……アールグレン……お前、何者だ?」
動き出そうとした体が固まってしまう。
「はっ……質問の意図が──」
「咎人は、お前を待っている……狙いは王子ではない……お前だ」
……私を……待っている?
*
「大臣。私にはあえて通路の存在を教えていなかったな」
謁見の間には誰もいなかった。が、血の跡が点々と続き、目的の場所を教えてくれている。玉座の位置がズレており、その下に梯子を設置した深い穴が見えた。
あからさますぎる。でも、だからこそこの先に王子はいる。
十中八九、敵の狙いは私の正体について。今さら私をどうしようというのかわからないが、王子をマリクを救うためならば私は何だってする。最初からそう決めている。
私は、大きく息を吐くと一度高く跳び上がり、そのまま地下の通路へと落下していった。
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