太陽の紋章と黒の陰謀

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「意外にもあっさりと決めたな。もっと抵抗するものとばかり思っていたが」 「王子の命が何より優先される」 「ダメだ──ダメだティナ! そんなことは許されない!」  王子……。声を荒げてくれるその優しさがこんなときにも関わらず愛しく感じてしまう。 「咎人の血が流れてることを気にしているのか? 僕はずっと知っていた! 君が何者なのか、君があのとき一緒に過ごしたティナだと、僕は最初から知っていたんだ! だから君を選んだ。だから──」 「王子。……もう、決めたことです」  やはり、王子は変わっていなかった。私のことを認めてくれたあの日のまま。 「王子を救うにはこの方法しかありません。私は、王子の秘書官として任務を全うし、そして今このとき秘書官の任を降ります」  王子の瞳が真っ直ぐに私を見る。王子がいてくれてよかった。王子の傍にいられてよかった。私の目指した道は間違えていなかった。だから。  唇が震える。本音を話すのがこんなに苦しいことなんて。 「だから、王子──」  声も震えているのがわかる。でも、意志を曲げるわけにはいかない。ここで涙を落とすことはできない。 「それ以上優しい言葉をかけないで」  揺れる視界の中で王子の瞳が静かに下りるのを確認した。 「王子を解放しろ。私は、今から咎人として生きていく」 「いいだろう。だが、お前がこっちに来るのが先だ」 「わかった。だが、約束は(たが)えるな。もしこれ以上王子に何かしたら、そのときは問答無用で斬り捨てる」  地面に落ちた剣を拾うと、前方に広がる暗闇を見つめたまま早足で男の横を通り過ぎていく。  王子、いやマリク。今までありがとう。役に立たない秘書官だったけど、最後に人として一つだけ祈らせてください。王子の進む道に太陽の祝福がありますように──。 「ダメだ。秘書官を辞めるのは認められない」  独り言のように小さく呟かれた一言に足が止まり、視線が勝手に王子の方を向く。裏返されたナイフが光った。 「王子様。もう終わったんだよ。ぐじぐじ言わずに後姿を見送ってやるんだな。秘書官一人救えない自分の弱さを噛み締めながらな」 「確かに私は弱い。太陽の紋章もまだ十分に扱えず、ティナや仲間たちに助けてもらってばかりだ。だからこそ、私は守らなければいけない」 「今さら何ができるんだ? 紋章も上手く扱えない、ろくに動けない状態でできることなんてないだろう」 「できるさ。信頼できる仲間がいれば、私はなんだってできる」  王子の手の甲が白く輝き、そのまま体が光に包まれていく。それは、周囲の暗闇全てを照らすような眩ゆい光だった。
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