太陽の紋章と黒の陰謀

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「王子! それは、まだっ!」  フリーダは言っていた。王子が魔法を使うと暴走してしまうだろうと。 「紋章は使えないはずじゃなかったのか!?」 「危険は承知だ! だけど、たとえ僕が倒れようとティナがいる!」  さらに光は強さを増していく。光は小さな欠片へと分離し、無数の剣が王子の周りを取り囲み目にも止まらぬ速さで回転していく。 「くそっ! こんな──」  男の持っていたナイフは弾き飛ばされ、光に目がくらみ手も足も出せないでいた。  王子を囲む剣が縛られていた縄を切り裂く。ゆっくりと立ち上がると王子は、右手を頭上高くへと掲げた。  太陽の輝きを放つ剣は、円環に回転しながらその中央に集まっていく。それはきっと小さな太陽。高密度の圧力で周囲の全てを一点に凝縮し、太陽そのものが形成されていく。  暗闇に包まれた通路は、もはや昼間のように明るかった。  だけど、直感的にわかる。この力は危険だ。これ以上は──止めなければいけない。  太陽が収縮を繰り返す。それは心臓の動きに似ていた。一定のリズムで鼓動が続く。しかし、徐々にリズムは狂い鼓動が激しくなっていく。私が王子に向かって手を伸ばしたそのときには、太陽は極端に縮まり、そして弾けた。 「王子っ!」  瞬く間に目を焼くかと思ってしまうほどの強烈な光が拡散し、爆発音が鼓膜を震わせる。王子に向かって跳んだときに私の目に飛び込んできたのは、苦痛に顔を歪ませる顔だった。  硬い地面へと全身が叩きつけられる。魔法の衝撃により崩れた瓦礫がすぐ隣へと落ちてきた。 「王子! 王子っ!」  光が消えた影響でよく確認できないが、あちこちに火傷を負っている。それに、意識が。 「王子! ……王子!! なんで、なんでこんな……」  息はしている。でも、体を揺すっても意識が戻ることはなかった。 「そうだ……処置が必要……王子、肩を──」  ダメだ持ち上がらない。非力な私では、王子を運ぶことができない。  後ろで瓦礫が落ちてくる音がした。土ぼこりが舞う中で黒い人影が揺れる。 「暴走覚悟とは、やってくれたな、王子」  咎人の男だ。でも、王子の魔法で傷を負ったのか両腕で胸を抱えるようにしてやっとのことで立っているように見える。 「ここは一度引かせてもらう。だが、お前は咎人の呪いとともにある。人の世界に居場所などあるはずがない」  土煙が消えたときにはもう男の姿はなく、代わりに最後に創り出したのであろうフォヴォラの黒影が召喚されていた。  フォルムは犬に似ていた。決定的に違うのは頭が3つあることだった。3頭がそれぞれ意志を持ったように窮屈そうな巨体で周りをうかがい、空気を震わせるほどの咆哮をする。  すぐにでも攻撃するべきだった。でも、動けない王子を守りながらこれだけの巨大な相手と戦うことはできない。  ──なんで私はいつも力がないんだろう。  王子の方へ向き直る。まだ目は閉じたままだった。 「目を覚ましてください! 王子!」  体を揺すり、頬を叩く。何度も何度も。こうしている間にも敵の足音がどんどんと近付いてくる。 「お願いだから! 今すぐ起きてください! 逃げてください! 王子──マリク……ねぇ、目を開けてよ! 動いてよ! マリクッ!」  地面が大きく揺れた。反射的に顔を上げれば、天井にヒビが入り、大きな瓦礫となって落ちてくる。避けられない──とマリクの体に覆い被さったそのとき、背中に熱を感じた。  火柱が岩石を包み込む。次の瞬間には青い一閃が岩を砕いていた。パラパラと破片が顔にかかる。 「だから一人は危ないって言ったじゃない! ティナ!」
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