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これは──いったい? まさか神の力? 王子の太陽の光とは違う月光のような光が静かに湛えている。
私は紋章が使えない。それは、咎人の血が入っているから。だけど、私にはもう半分に人の血が流れている。
「そうか」
わからない。だけど、不思議と確信があった。これは、咎人と人が混ざり合った私だけの力。咎人の男が私を欲していたのは、この力を知っていたからなのかもしれない。
咆哮が聞こえた。私は、引き抜いた剣をそのまま突進してきた怪物へと振り抜いた。一閃。今度はあっさりと真ん中の首を斬り落とすことができた。
フォヴォラは驚いたのかすぐに後ろへと巨体を揺らしながら跳んだ。距離を取ってまた遠距離からの攻撃を放つ。
光り輝く刃で弾き返しながら、一直線に走り出す。
フォヴォラは諦めたのか砲撃をやめた。代わりに喉が裂けんばかりの大声で咆哮を放った。
両手で剣を振り抜く。走り抜けた後ろで2つに分かれた体が地響きとともに倒れていくのがわかる。後ろを振り返れば、黒い影が塵のように消えていくところだった。
大きな物音を立てて頭上の揺れが激しくなっていく。支えていた天井はいよいよ耐えきれずに今にも瓦解して落ちてきそうだった。柄から手を離すと、魔法のように現れた剣はフォヴォラと同じように消えていく。あとは、とにかく逃げるだけ!
逃げながら、私はこれからのことを考えていた。一つひとつ数えるのも嫌になるほど、頭の痛い問題が山積している。
でも──。口元が自然にほころぶのがわかった。
今はそれよりも何よりも王子に会いたかった。王子に会って確認しなければいけないことがたくさんある。伝えるべき言葉もたくさんある。
僅かに差し込む光が見えてくる。梯子が、地面の揺れに合わせて激しく揺れている。
「ティナ! 早く!」
梯子からは待ち構えていた王子が顔をのぞかせ手を伸ばしていた。私は暗闇を照らす光に向かって思い切り跳ぶと、王子の手をつかんだ。体がぐんと持ち上げられ、暗闇の外へ、宮殿の光の下へ引き上げられる。
急に光の下へ出たことで眩む瞳が最初にとらえたのは王子の顔だった。青色の瞳に爽やかな空のような青い髪、何よりも優しげな微笑みが目の前にある。
「ティナ」
王子は甘く囁くように私の名を呼んでくれた。私もすぐに返事をしたかったが、なぜか言葉が出てこない。涙腺が壊れたように後から後から涙が出てきて止まらない。
滲んだ視界の中で、王子の指が私の方へ伸びてくる。柔らかく温かな指は、あふれ出る涙をそっと拭ってくれた。
「大丈夫? ティナ」
首を小さく横に振る。大丈夫なわけがない。こんなにも王子の顔が近くにあるのだから。
しばらくの間、鼓動は高鳴ったままだった。
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