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ティーカップに鮮やかな色の紅茶を注いでいく。
「マリク王子。紅茶ができました」
王子は視線を落として読んでいた書類から目を上げると、微笑みを向けて立ち上がる。
「ありがとう。少し休憩したいと思ってたところなんだ」
「いえ、王子。まだ休憩はできません」
あからさまに肩を落とす王子。その表情の移り変わりを見て、私は心の中でくすりと笑った。
「延期になってしまった〈アヌ〉国への訪問も待っていますし、防衛大臣の処分も決定していません。それになにより──」
「彼らの大規模侵攻についてだろう。連日の会議で頭を悩ませてるところなんだけど」
「そろそろフリーダも調査から戻ってくることですし、早急に対策を練ればなりません。関連して兵士の訓練についてですが私が──」
「わかった、わかったよ。ティナ、でも少し休ませてくれ。ティナの淹れてくれた紅茶はゆっくり味わいたいんだ」
えっ──そ、そそそそそれって!?
赤面したのがわかる。王子にバレないために後ろを向くと溜め込んだ息をそっと吐き出した。
「で、でしたら、紅茶を飲み終わるまで。私もお供します」
「ありがとう、ティナ」
王子は、まるで私の心の内を見透かしたように微笑むととんでもないことを言った。
「よかったら、紅茶を飲む間だけでも昔みたいにマリクって呼んでくれない?」
「なっ、なななななな!? そ、そんなことできるわけがない──」
「僕の命令」
「だ、ダメです! 絶対、無理です!!」
王子はとても愉快そうに笑った。目尻から涙まで出てきている。
「冗談だよ、ティナ」
「ム……。そ、そうですか。了解しました」
「ほら、ティナも席について」
王子に促されて私も王子の向かいに座った。紅茶の香りが動揺した心を落ち着かせてくれる。
でも、本当はちょっと名前を呼んでみたかった。王子がいつか許してくれるなら。そんな日が来るのなら──。
「ティナ、今、笑った?」
吸い込まれそうな王子の碧い瞳が当たり前のように私を見ている。そうだ、これ以上の贅沢は望まない。だから、神様。どうか。どうかこのままずっと傍にいられますように──。
◇◇◇◆◆◆
お読みいただきありがとうございました。まだまだ物語は続く雰囲気ですが、コンテスト応募作品のため、一旦ここで完結とさせていただきます(^^)
ティナの物語はどうだったでしょうか?
もしよければ、ペコメやレビューに感想などいただけると今後の作品の参考になりますので、よろしくお願いできれば嬉しい限りです!
また、設定資料などをスター特典に載せたいと思うのでそちらもどうぞご覧ください。
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