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エピソード1:謎の石
【謎の紋様】
アジアの極東が日本。九州という島の、さらに西の端にある小さな島。
海と山に囲まれたのどかな田舎の風景。
築100年もあるかと思われる古民家から飛び出して来た高校生の蒼真(そうま)。
タカナ(高菜)のおにぎりを食べながら、急いでチャリをこぐ。
「行ってきま〜す!」
蒼真(そうま)は好奇心旺盛で、真面目。弱そうだが、人間味があり、情にもろい性格だ。
郷土部で地域の歴史研究に張り切っているが、歴史以外は落第点の成績だ。
「またあの子ったら。いつも遅刻ぎりぎり」
祖母のミホはあきれたようにつぶやく。
「ま〜元気が一番じゃ。しっかり勉強せぇよ!」
縁側に腰かけた祖父の寛(ひろし)が笑いながら話す。
一人っ子の蒼真(そうま)は両親を小学生の頃に亡くし、祖父らに育てられた。
寛(ひろし)とミホは孫の蒼真(そうま)を不憫(ふびん)に思い、尚更のこと人一倍、可愛がっていた。
通学路の途中、住民たちが何やら噂(うわさ)話をしている。
「池から浮かび上がったって!」
「えっ?何それ」
「気色ん悪かねぇ。何か起きなけりゃ、いいけど」
奇妙な現象に驚き、心配する住民たち。
蒼真(そうま)が住民の一人に聞いた。
「何の話?」
「子どもはそんな話、聞かんでいい!」
蒼真(そうま)はしかられ、何のことやら分からず、首をかしげて、また自転車に乗り、学校へ急いだ。
校門近く。
通学中の女子高生、花音(かのん)が自転車で近寄って来た蒼真(そうま)に、元気に挨拶をする。
「蒼真(そうま)ー!おはよー!」
花音(かのん)はかわいい学校のマドンナで人気者。
部活は蒼真(そうま)と同じ郷土部だ。
「おっす!おはよー!」
蒼真(そうま)は自転車を止めて、気軽に返す。
花音(かのん)は蒼真(そうま)と違っていつもは登校が早く、普段ならすでに教室に入っている時間だ。
「今日、めっちゃ遅くない?」
「うん、朝、お母さんの墓参りに行って来たんだよね。
今日、命日なんだ」
「そっか」
二人とも母親がいないので幼い頃から、兄弟みたいに助け合って来た幼なじみだ。
朝から暗い話だと滅入ってしまうので、蒼真(そうま)は話をすぐに切り替えて昨夜、ネットで見たファンタジーアニメの話題で盛り上がりながら、二人は仲良く学校へ向かった。
高校で歴史の授業中。
教師の倉壮(くらあき)が今朝の新聞を生徒に見せ、尋ねる。
倉壮(くらあき)は日本史が専門で、郷土部の顧問をしている。
「西の久保の池から謎の紋様が刻まれた石が見つかったって知ってるか?」
「マジで?それって何?」
生徒たちが興奮して話し始める。
倉壮(くらあき)は黒板に絵を描きながら話す。
「池から浮かび上がったってさ」
「いいね!帰りに見に行こ!陽翔(はると)いい?」
通学中に噂話を聞いていた蒼真(そうま)はこの事だったのかと思い出し、強い興味を示す。
「蒼真(そうま)は他の科目は課題だらけだけど、歴史は得意なんだね。その好奇心を忘れるなよ」
倉壮(くらあき)が話すと、クラスのみんなが笑い出す。
一方、友人の陽翔(はると)は蒼真(そうま)とは全然違って成績も良く、かっこいいし、モテモテだ。
そんな陽翔(はると)が、楽人(らくと)にも一緒に行かないかと誘う。
「おっしゃー!それSNSでシェア!“いいね”がバンバン来るかもしれんぞ。わくわくするな!」
楽人(らくと)は別の意味で関心があるようだ。
彼はお調子もので、仲間では滑稽な存在。面白くて、いつもみんなを笑わす。
「モチベーションが明らかに違うな。まあ、ついていくけど」
陽翔(はると)は楽人(らくと)に呆れているが、クールな彼は知的な興味があるようだ。
【探検】
現在の「西の久保公園」は東京ドームなんと約8個分の広さ約36.7haが公園化され、サクラやショウブ、アヤメの季節には多くの市民が集う場所になっている。
公園の中心部に大きなため池(河内山溜池)がある。
もともと田んぼだった所を昭和初期の1934年にせき止めて作った人工池だ。当時は池の中央あたりに川が流れていたという。
下流の右手側は鬱蒼(うっそう)とした山へと続き、木々が生い茂り、日中は薄暗く、近づく人はほとんどいない寂しい場所だ。
ため池に着いた三人。
「どこにあるんだろう?」
蒼真(そうま)たちは池の周りを注意深く探すが全く、見当たらない。
池のほとり、大きな木が茂る場所にきた。
すると突然、突風が吹き出し、激しく雨が降り始めた。
ゴロ、ゴロと大地を揺らすほど激しい稲妻が走り、ドーンと大きな音がして木に落ちた。
その場に倒れ、気絶する三人。
雨に濡(ぬ)れながら気を取り戻す蒼真(そうま)。
「おい!大丈夫か?」
陽翔(はると)と楽人(らくと)二人を揺り起こすと気を取り戻した。
池に目をやると、池の中の水が天に吸い上げられ、湖底に大きな穴が空いた。
金色の眩しい光を放つものが微かに見える。
「なんだって!あれって何だろう?」
「おお、何か丸いでかい石みたいなもんがあるぞ」
「うわっ、やべ!早く逃げよう!」
目を擦りながら、蒼真(そうま)が叫び、陽翔(はると)と楽人(らくと)は、あまりの恐ろしさに絶叫した。
バチ、バチ!
大きな石は眩しい光を放ちながら、プラズマ放電が起きている。
突然、ドーンと大きな音がして、地面を揺るがした後、池の水が渦巻き、石は池の中に消えた。
「今のは何だ?」
蒼真(そうま)は驚きながら、呟いた。
3人は目を合わせながら、ガタガタ震えていた。
不思議なものを見てしまった三人は慌てて、家に逃げ帰った。
【コレジオ】
翌日。
学校の廊下で女子たちが騒いでいる。
「キャー!陽翔(はると)くん、すご〜い!」
「はぁ、相変わらず女子ウケ抜群だな。
おれもちょっとはモテてみたいぜ」
楽人(らくと)は呆れて、つぶや。
陽翔(はると)が部活仲間に声をかけた。
「蒼真(そうま)、楽人(らくと)、部活の時間だ。
昨日の出来事を顧問の倉壮(くらあき)先生に話そう」
放課後、郷土部の部室。
蒼真(そうま)は小学生の頃から考古学が大好きで、市内の縄文や弥生時代の遺跡を自転車でめぐり、石器や土器の採集に夢中になっていた。
その時の仲間が陽翔(はると)と楽人(らくと)で、部活は郷土部へ入部した。
花音(かのん)は蒼真(そうま)に「めっちゃ楽しいから!」と熱く勧められ渋々、入部してしまった。
蒼真(そうま)は昨日の出来事を顧問の倉壮(くらあき)に話すと笑いながら答えた。
「夢でも見たんじゃないのか?
君たちは16世紀末、この地に大学が造られたことは知ってるか」
「いや、初めて聞きました」
蒼真(そうま)たちは驚いた様子でうなずく。
倉壮(くらあき)は蒼真(そうま)たちに歴史の深い専門知識を教示してくれる頼りになる存在だ。
板書しながら、説明する。
「英語では大学をカレッジ(college)というが、ポルトガル語(colégio)、スペイン語(colegio)でコレジオというんだ。
その石はコレジオがあった場所を示すものではないかと新聞に書いてあった」
(解説)
コレジオではラテン語を中心に学び、ヨーロッパから日本に持ち帰った金属活字の印刷機で辞書やイソップ物語などの本をローマ字で出版した。
コレジオで印刷された本が今も英国の大英図書館など残っていて、「キリシタン本」と呼ばれ、大変貴重なものとされる。
しかし、世界にわずか30種ほどしか残っていないため仮に今、発見されたら数億から十数億円もの値段が付くともいわれている。
楽人(らくと)は本が、十数億円もの値がつくことに大変、興味を持ったらしい。
「本か...陽翔(はると)んち、江戸時代から続く元庄屋だし、由緒あるから、持ってそうじゃん?」
「ないよ、そんなの。ありえないわ」
陽翔(はると)は呆れて答える。
倉壮(くらあき)は彼らに貴重なキリシタン本の重要性と時代背景を語る。
「世界中の研究家などが血眼で探しているけど、簡単には見つからん。
それもそのはず、時の支配者が厳しい弾圧の中、見つけしだい焼いてしまったんだ」
「しかし400年以上も前に、何でここに大学があったんですか?」
陽翔(はると)はこの地になぜ中世のヨーロッパ人が作った大学があったのか、その訳を不思議がる。
「布教の目的もあったが、南蛮貿易が目的の領主と利益が一致し、ここへ誘致したんだね。
誘致と引き換えに、南蛮貿易で富を得ようというわけなんだ。
しかしコレジオがあった場所が未だ分からず、この島のどこにあったか60年以上も論争が続いている。
その鍵を握る証拠が池から出たと今、騒がれているんだ。
さらに世界文化遺産の崎津集落に隣接する今富集落の西側の尾根(標高約50メートル)を登ったところに大天使を描いたと言われる祠(ほこら)と謎の洞窟があり、これらとコレジオの関係についてまだ誰も謎を解いたものはいないんだ」
倉壮(くらあき)はコレジオの場所をめぐり、半世紀以上も続く歴史論争と、南蛮貿易で得た金銀財宝があった可能性をほのめかす。
【南蛮貿易】
郷土部顧問のナミエはいつも分かりやすくアドバイスをしてくれる。
「どこにあったのか、場所が書かれた古文書が見つかれば世界史上の大発見なんだけどね!
世界的な大ニュースになり、君たちも一躍、世界から注目を浴びるわよ!」
「オーケー!見つけてやるよ!」
「いいね!楽しそうだね。パソコン得意だから情報収集を担当するね」
「よし!金銀財宝やキリシタン本をゲットして、一発で億万長者だ!」
蒼真(そうま)は世界的な歴史問題の解決に乗り気になっている。
また陽翔(はると)は、知的好奇心から興味を持ったらしい。
一方、楽人(らくと)は、どうも一攫(かく)千金を狙っている。
「それぞれの目的は違っても、結束するのが郷土部の伝統だ。がんばれ!」
顧問の倉壮(くらあき)は歴史上の最大の問題解決に向けて、彼らに期待を膨らませた。
図書館で資料を見ている蒼真(そうま)と陽翔(はると)。
蒼真(そうま)は南蛮貿易の目的や重要な点に着目した。
「結局、宣教師たちの記録だけじゃなくて、当時の歴史全体を知るにはもっと多角的な情報が必要だな。
たとえば、宣教師たちが経済的にも活動していたことが分かるんだ。
それって今で言うところの多角的なビジネスモデルってやつかもしれないよ」
楽人(らくと)、花音(かのん)がやって来る。
「やっぱりここにいたんだね?探したよ。何か新しい情報ある?」
花音(かのん)は蒼真(そうま)に尋ねる。
「証拠は見つからなかったけど、面白いことがわかったんだよ。
コレジオの関連施設では南蛮貿易の商社みたいなこともやっていたらしい。
中国の明時代後期に、中国南部の華南地方で焼かれた『華南三彩貼花唐草文五耳壷』(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)など南蛮貿易に関連したものが遺跡から多く出土している」
蒼真(そうま)は南蛮貿易品の中に貴重な宝物がすでに発見されていることを指摘する。
(解説)
「華南三彩貼花唐草文五耳壷」(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)
「花や葉・蔓などの文様を貼り付け、緑・黄・紫の釉薬で彩られた五耳壷。
明時代後期の中国華南地方で焼かれ、16世紀末頃日本国内に招来されたものといわれる。
中世大友氏府内町跡をはじめ、大坂道修遺跡・奈良興福寺一乗院跡・東京汐留遺跡などから、同様の壷の破片が出土しており、特に府内町跡の事例ではその量の多さが指摘されている。」
(文化庁=文化遺産オンラインより。https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/23457)
「おいおい、かなり稼いでたんだろ?」
楽人(らくと)も興味を示す。
「まあ、そんなこともありえるさ」
と、蒼真(そうま)が答える。
「マジで!?」
花音(かのん)もびっくりした様子だ。
まだ雲をつかむような話でみんな半信半疑でいるが、わくわくするような驚きがあるのではないかと彼らは期待に胸を膨らませていた。
【謎の文字】
蒼真(そうま)は池での出来事を思い出す。
「でも、あの池の石って一体なんだろう?
あれは現実だったよね」
陽翔(はると)と楽人(らくと)がうなずく。
「謎の文字が刻まれてるみたいだね。
いや半導体みたいな文様かも?
プラズマ放電もしていたし…」
と、陽翔(はると)は、浮かび上がった石に注目していた。
「コレジオの場所とか、すごく謎だよね。
じゃあ、あの石をもう一回、調べてみようか」
蒼真(そうま)が仲間に促す。
「ちょっと〜、怖いよ〜!」
花音(かのん)はこれから何が起きるか分からない不安に襲われた。
後日、研究者らによって謎の文字が刻まれた石の調査が現地で始まり、金銀財宝の謎を解く鍵が判明したのではないかとの情報も入る。
さらにその財宝を探そうとする悪党のトレジャーハンターらが暗躍し始めた。
まだ解明されていない謎や伏線を残しつつ、続く。
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