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パパは?
母から携帯を受け取って、二階の寝室へと向かった。
その途中で早速携帯を開ける。雅に申し訳ないと思っていたからだった。
目に飛び込んできた電池アイコン表記は満タンだった。
(流石ー。お母さんありがとう)
母の細やかな気配りに感謝しながら階段を上る。
(ん? てな事は? 携帯がフル充電される程長湯だったって事? そりゃ呆れられる筈だわ。お母さんごめんね)
私はあの後、色々なことを思い出せそうで出せない柵に取り付かれバスタブから出られなくなったのだ。そんなのとが母の心配の原因になっているのではないのかと考えて何となく悄げていた。
「ん!?」
何か違和感がある。
階段がもう一つ……。
(えっ、この景色!? あれっ!? 何だか昔見たような……)
何故だかそう思った。
でも元々此処に階段は無かった筈だった。
(廊下の真ん中に階段? まるで宇宙に続くみたいだなー)
そう思った瞬間に体が浮いて、私は階段に引き込まれた。
ってゆうか、強制的に上らされていた。
(ヤバい! きっとUFOだ)
咄嗟にそう感じた。でも不思議と恐怖心はなかった。私は何故か安らぎさえ覚え、雅のことは何時も間にか忘れていた。
廊下の上に収納階段があったなんて……
すっかり忘れていた。
気にはなっていた?
そう少しは……。
だって長四角の鍵付きの枠が廊下の天井にあったら、誰だって気にすると思う。
それが何かを確認しなくても……。
其処は屋根裏部屋だった。
(わー。懐かしい!!)
頭の何処かで何か弾けた。まるで記憶喪失みたいに、ベールに包まれた何か……。今確実に体の中で蠢き始めた。
私は、もう一度何かを感じるために目を瞑る。
(そうだ。此処は……)
この場所には沢山の思い出があった。
此処で寝なくなって何年が経ったのだろうか?
ハイジやアンに憧れ、物置だったこの屋根裏部屋に引っ越した。
あれは確か十歳になる前日だった。
突然現れたお・ね・え・さんと一緒に冒険に出発したのだった。
何処へって。あれは確か鏡の中……、そうだパパのお土産の魔法の鏡だった……。
その時。不意に思い出す。行方不明になったままのパパの事を。
十歳の誕生日に帰って来なかったパパ。
そうだ。あの日からずっと、行方不明のままだった。
(何故今頃? 何故急に……何故思い出したの?)
雅と一緒にフェンシングに行った場所で数々の体験をした。
『初めてじゃなかったりして……』って言いながら『それじゃ初めてだってことにして、ルールなんか話すね』って言った雅。
そうだ。あの時から私は何かに疑問を感じていたのかも知れない。
(ん? てなことは、雅は知っていたの? パパが行方不明だってこと? だったら教えてくれたって……)
その時思い出した。雅が何時も傍にいてくれたことを……。
(きっと私を苦しめたくなかったのだ)
私は改めて雅に感謝した。
屋根裏部屋から下りると、部屋の様子が変わっていた。それはまるで十年前のあの部屋その物だった。
私は魔法の鏡を受け取ったあの日、急に屋根裏部屋が怖くなってこの部屋に戻ったのだった。
(あれっ、確かこのような部屋だったな。でも何故屋根裏部屋にもう一つのベッドが置いてあったんだろう? そう。だからハイジごっこも出来たんだよな)
そんなことを考えつつベッドに潜り込んだ。
でもそのベッドは誰かに占領されていた。
枕にあったポニーテールに触れた。
(えっ!? このポニーテールって、もしかしたら、私……?)
その時又、あのお・ね・え・さんの事が脳裏を過った。
(えっ、ええー!?)
頭の中で又何かか弾けた。
(そうか!? そうだったのか。もしかしたら……、十年前のお・ね・え・さんは私だったのかも)
私は震えていた。
(バスルームでパパの事を思い出しかけた私は、行方不明になった真相が知りたくて……、きっと私はタイムスリップしたんだ!)
私はさっき不意に、パパを助けるためにパジャマからハーフパンツになったことを思い出した。それは十歳の誕生日からだった。
小さい私は私と同じような格好をして、それでも何も知らずただ眠り込んでいた。
(ポニーテールか? 何故そのままなんだろうか?)
私は自分のポニーテールを触っていた。
見ると、チビのポニーテールからリボンが外れかかっていた。
私はそれを結び直した。
(あれっこのリボン? 確か……パパの……)
自分の考えに自信があった訳ではない。
第一タイムスリップ何て嘘っぱちだと思っていた。
まさか自分がこんな目にあうなんて。
母の反対を押し切って屋根裏部屋で寝たことを思い出した。
収納階段が開いていたことがあった。
あれはきっと母が掃除をしていたのだろう。
好奇心で上った私は屋根裏部屋を発見してしまったのだ。
ハイジやアンに憧れていた私は、其処で寝たいと言い出し住民となった。そう。パパが魔法の鏡を見つけてくるまでは……。
屋根裏部屋は私を待っていた。きっとあの日のままで。
(あの日のまま? そのあの日って何だ?)
パパが行方不明になったあの日? なの?
(私は何故此処に居る? そりゃあパパを助けるために決まっている。でも何故その記憶を忘れていたのか? 私って一体何者? 何故今此処に居る?)
又堂々巡り……、答えなど出る筈もない。
チビ。私は十年前の私をそう呼ぶことにして、そっと寝顔を見た。
(まあ何て可愛いらしいんだろう)
自分の寝顔にキュンとなる。
(馬鹿か私は……)
そう思いつつベッドで眠るチビのポニーテールを見つめた。
(ずっとそのまま……)
何故だか解らないけど、これが答えのように思えた。ポニーテールもそうだけど、ハーフパンツもそのままだった。
(私はきっと……パパに私だと気付いて貰いたくて……ずっとそのままこのヘアースタイルだったんだ。そうだきっと……パパを探す為に此処へ……。そうか。やっぱりこれがタイムスリップなんだ)
私はこの答えが正解か否かを見極めるために、チビの体を揺すった。
その時、チビの枕元にあるパパのお土産に気付いた。
お伽話に出てくる魔法の鏡をねだった時、パパが苦し紛れに置いていってくれた物だ。
私は本当はそれで良かったのに……パパの事苦しめてしまったらしい。その時、私は忘れ物に気付いた。
それはこの手鏡と対になった物だった。
あの魔法の鏡の中で遊んでいた時、落とした物だった。
(ってゆう事は……これから二人であの鏡の中に入るのか? パパが見つけてくれた、本物の魔法の鏡。あの中に再び……、チビの私と一緒に……)
又二人? だけの冒険が始まる。
忘れ物を探す為に……、行方不明になっているパパを探すために……。
(そうだった。パパが行方不明になった時……私は屋根裏部屋でこの鏡を見つけたんだ。パパを探しに行ったあの部屋で……どうして忘れていたんだろう? どうしてあの部屋だったんだろう? 一体屋根裏部屋に何があると言うのだろうか?)
私は何となく手にした手鏡を、ハーフパンツのポケットの中に入れていた。
そう、自分でも気付かないうちに……。
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