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Prologue 最果ての楽園
手のひらに勝るものはないけれど、魔法を使えば更に万能だ。
惑星ティースは見渡す限り灰色の砂の惑星で、食料も少なく、生活は皆質素だ。
どれだけ室内に防護の魔法を施しても、さらさらとした小さな砂粒が入り込み服も、ベッドも、口の中さえも砂まみれにしていった。
そっと手のひらに魔法を込め、丹念に両親の体を払う。
枕からベッド、父の本、読みかけの魔法書、母の薬、と、ありとあらゆる所から砂を払い落とすのは魔法の得意なリリーの役目だ。
最後に部屋から砂を全て出し……寝る準備は万端。
できたよ、と報告すれば両親はめいっぱいリリーを褒めて、頭を撫でた。
家族三人、寄り添って同じベッドで眠る。
朝も晩も変わらず吹き荒れる砂嵐の音も、身を寄せ合えば怖くない。
「惑星エライユは、ここから三百光年先にある緑豊かな惑星だ──リリー、緑はどれかな?」
穏やかな声で語りかける父に、リリーは図鑑の緑色を指差して得意げにこれ!と答える。
そうだね、と両親は笑った。
「青い海、青い空……きっと、とても美しいんだろうね」
頭を撫でる母の手はとても優しい。
「お金が貯まったら、みんなで行こうね」
うんうん、と頷くリリー。
「お金が貯まったら、どうやって、行くんだった?」
みなと!ふなつきばに、いくの。
「港にはどうやって行く?」
おうちをでてひだり、ずっとまっすぐ!
「何を持って行く?」
これ!
リリーは懐中時計を掲げた。
ちゃり、と鎖のついた金時計が手の中で鳴った。
よく覚えてるね、偉いね、と口々に褒めながら両親が頭を撫でるのでリリーは心地よく、うつ伏せに枕に顔を半分埋めて手の中の懐中時計を握りしめた。
宇宙の果ての果ての果て……三百光年先の惑星エライユは、きっと砂嵐もなく、毎日砂を払わなくても良くて、母の気管も蝕まず。
怖いものは何もない。
楽園のような、幸せが待っているのだろう。
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