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2.5 有翼種
リリーが惑星エライユにやってきた時、それはもう大騒ぎになった。
メイドたちは娯楽に飢えていて純粋に来訪を喜んだが、他の者たちはそうとはいかない。
健康で、たったひとりで…………有翼種(ゆうよくしゅ)であるという事実に皆目を剥いた。
背中に翼がある種族を指す有翼種は殆どが絶滅し生き残りはほんの僅かで、その希少性から人身売買など手荒に扱われていた。
「……一人で来たのか?家族や、兄弟は?」
ヴィントがリリーの足元に跪き、両手をとって丁寧に質問する。
リリーがやってきたという惑星ティースは聞き覚えのないほど遠い惑星だが、あまり良い星ではなかったのだろう。
ぼろぼろの衣類を纏って薄汚れているリリーは丸い目を伏せて首を横に振る。
「……もし、迎えが必要なら、船を出して迎えに行こうか」
リリーの銀色のまつ毛に覆われた濃紺色の瞳が揺れた。
有翼種故に狙われ、逃げ出せず、人質に取られたり家族だけ逃したりするのはよくある話だ。
もし他に生き残りがいるのであれば、慎重に聞き出さなければならない。
深い虹彩の瞳は彷徨って、絞り出す言葉を考えているようだった。
黄金色のヴィントの瞳を見つめ、緊張をはらんだ少し掠れた声で、リリーは答えた。
「家族はいないです」
もう耐えられない、と離れたところで見守っていたメイドたちは飛びつく勢いでリリーを取り囲み、あっという間に受け入れる。
突然やってきた底抜けに明るいメイドたちにリリーは目を白黒させながら応対した。
手を離し、少し離れて見つめるヴィントの肩を王が叩く。
「こういうのを運命って言うんだよな」
「馬鹿な事を」
置かれた手を払いのけた。
有翼種の中でも頂点と言われる種族の最後の生き残りであるエライユの騎士、ヴィントは目を逸らした。
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