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4 この世で一番……
その日謁見の間にメイドたちが集められ王座の前に整列……しているようであんまりしておらず、雑談しながらふにゃふにゃ立っていた。
リリーはどうしたらいいか分からず、最後尾にとりあえず並んだ。
「儂はな、怒っておる」
開口一番王は告げた。
もちろんメイドたちはいつも通り緊張感なく「エーッ何でぇ?」「お腹空いてるのかな?」などと口々に理由を考えている。
「貴様ら……この惑星で一番かっこいいのは誰だ?」
メイドたちは隣同士顔を見合わせてウン、と言い……
「ヴィント様でーす!!」
合わせもしていないのに揃って大声で言った。
「違あああう!!!!」
だんだんと床を踏みならして王──ラーニッシュは怒った。
「よく見ろ!!儂だろ!!!」
ラーニッシュは黒髪黒目、これといった特徴はないが30代前半、精悍な顔立ち、大柄で鍛えられた体躯……女子受けするような外見ではあるが。
「ヴィント様のあのサラサラな髪!」
「涼やかな目元!」
「ながーい足!」
ねー?かっこいい!と口々に褒めるメイドたち。
後ろで眺めていたリリーは青ざめた。
ラーニッシュは顔を真っ赤にして震えている。
椅子からがたーんと立ち上がるとずかずかとメイド達の真ん中に割って入った。
その勢いにリリーはひぃっと思わず後ずさる。
メイドたちは気にせずあぁーんとラーニッシュにしがみついた。
「でも下半身は王様が一番」
そーよそーよ!と合唱。それは聞きたくない、とリリーは思った。
「だってヴィント様寝てくれないもんね」
それも聞いてないよ!
うがあああ!とラーニッシュは咆えると左腕に2人、右腕に2人のメイドをつけたまま腕を振り上げる。
きゃああすてきいと黄色い悲鳴が上がった。
「この世で!一番!かっこいいのは!!誰だ!!」
間入れず少女達の合わせ声。
「ヴィント様でーす!」
んぐあああああ!!
右腕と左腕を乱暴に振り解くと最後列まで来た。
「お前ら。覚えてろよ」
ぼそっと呟くと小脇にリリーを抱えた。
「はいっ?」
覚えてろよおおおと絶叫しながら全力疾走した。
きゃあああ!というメイド達の悲鳴と連れ去られたリリーのひぎやぁああという緊張感と色気に欠ける悲しい叫びが重なった。
ばたんがしゃんという乱雑にドアと鍵が閉められた音の後、乱雑と丁寧の中間くらいの扱いでぼすりとリリーは降ろされた。
はーはーと荒い息をしたラーニッシュはドアの前でしゃがみ込むと「儂は……とびきりかっこいいのに……」と項垂れていた。……何だか可哀想になってくる。
嘘か誠か、魔王を封印した勇者だというのに。
「リリーよ。」
「は、はい?」
どう声をかけようか悩んでいると問いかけられた。
「かっこいいとは、どんな顔だ?」
「え…ええとお………」
人生の大半を家の中で過ごし、両親とくらいしか接点のなかったリリーにとって難しい質問だ。
「そのう…故郷で昔読んだ雑誌に、塩顔の男性がかっこいいって書いてありました」
「何だ塩顔って。塩に顔があるか」
それはそうだ。
「え…ええと………」
ラーニッシュはリリーの両肩をぐわしと掴んで
「外から来たお前もヴィントの方がかっこいいというのか!?」
必死の質問がなんか悲しい。
「ち、近いです!あの、」
その時ベキベキと音を立ててドアが軋み、鍵と蝶番がひしゃげて吹っ飛んだ。
「ラーニッシュ……貴様………」
地底の底から捻り出したような低い声にリリーは短く悲鳴を上げた……今日は悲鳴を上げてばかりいる。
片手でドアをこじ開けた吹き飛ばし魔王……じゃなくてヴィントが入って来た。
「来たな儂よりかっこいいとか言われる奴!引っ込んでろ!」
ヴィントに負けじと立ち上がって吠えるラーニッシュ。
「女子と!鍵のかけた部屋に2人きりで籠るなとあれほど!」
はん!誰がお前の言う事などアッやめろこのふざけるなやめてください痛い痛い!威勢の良さがだんだんと悲鳴に変わり哀願するラーニッシュを無視したヴィントはべっきべきに折りたたみ………見ていられない、が見てしまう。
「ごめんねぇ、リリー!遅くなっちゃって……手遅れだった?」
うるうると涙を目に溜めたメイドのフラーが飛びついてくる。
……手遅れって何だ。
「あの、あのふたり………」
放っておいて良いのだろうか。
普段の穏やかなヴィントからは想像もつかないような荒々しさで自分より随分大きいはずのラーニッシュを……ちょっとアレしている。
リリーにひっついて頭をよしよししていたメイドのアンがああー、と
「あのふたり、付き合いが長くて仲良いの。つい、こう!なっちゃうみたい」
握りこぶしをぶんぶんして説明する。
……こうという次元では無くなってる気はするが……
「……すまない。次は王城の外に吊るすから今日は許してくれないか」
……騎士って吊るすんだ……
そういえばヴィントがラーニッシュにかしずいている様子は一度も見た事がないし、騎士とは何かもうよく分からなくなってくる。
「ご……ご配慮……ありがとうございます……」
吊るされてびっちびっちと跳ねているラーニッシュは大声で鬼畜!オニ!アクマ!ニンジャ!ばーかばーかとよく分からない罵倒を並べていたが、ヴィントに睨まれ大人しくなった。
元気である。
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