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4.5 種族検査
検疫の結果が来ている、とヴィントに執務室に呼ばれリリーは宙空に映し出された魔法液晶を見た。
はぁ、と感嘆のため息が漏れる。
魔法液晶は空間に画像や文字を写し込む魔法で動く機材で、話には聞いた事があるものの実際に目にするのは初めてだ。
「読めるか?」
「……文字は読めますが、意味はあんまり……」
「読み飛ばしてかまわない。健康だと書いてある」
「そうですか」
答えてからリリーはほっと胸を撫で下ろした。
惑星エライユに着いた時に、一応病気など持ち込まないようにと検疫を受けたがまあ住人頑丈なので大丈夫だろうとエライユ式の緩さで結果が出る前に入国を受け入れられてしまった。
「肝心の種族検査の方だが──……」
リリーは両親とは全く異なる容姿で産まれてきた。
先祖返り、とは言われていたが、検疫ついでに種族も検査してもらえるという事なので検査していた。
検査には時間がかかるらしく、春に送ったはずの情報はようやく秋になって戻ってきた。
見た方が早いだろう、と魔法液晶に情報が映し出される。
「惑星ティースは単一種族で、両親は砂ネズミ族。間違いないか?」
はい、とリリーは返事をする。
ティースの人間は皆褐色の肌、黒い髪、茶色い瞳に獣耳が生えていた。
リリーのように白い肌、銀に近い薄紫色の髪、濃紺の瞳、背中の純白の翼さぞ異質に映っただろう。
「これが、一般的な砂ネズミの種族値」
一本の横棒線が山折り谷折り複雑に曲がりくねって表す種族情報は血液と本人の持つ魔力量で表されるらしい。
「これは君のだ」
リリーの種族を表す棒線はくるくると横に螺旋を描いていた。
砂ネズミのものとは全然違う。
「有翼種は近年絶滅したグリフォンを含め、ガルーダ、ペガサス……ドラグーン全四種」
リリーはちらっとヴィントを見た。
ヴィントの種族はドラグーンだと聞いている。
「私と……同じ種族……ないですね」
もうひとつ、とヴィントが表示させた情報にリリーはあっと声を上げる。
螺旋を描いて表示される白い線。
リリーと全く同じものだ。
「太古の昔、もうひとつ種族があったのを知っているか?」
「エフェメリス──……!?」
リリーは驚きで口元を手で覆う。
神話や伝承の域で、少なくとも実際に会った事がある者はいないとされる種族だ。
「つまりリリーはめちゃかわいい、ってこと?」
いつの間にか隣に座っていたメイドのフラーを見る。
それからヴィントを見る。
そしてリリーは首を傾げた。
……そんな話だっけ?
「そういう話だ」
ヴィントが纏め上げ、横でフラーが良かったねえ、かわいいって!などと言っている。
「ヴィント様あたしにもかわいいって言って?」
「可愛い可愛い」
「目線ください!投げやりに言わないで!?」
何々なんの話ー?とメイドたち八人が押し寄せ、ヴィント様がかわいいって言ってくれるのー!とフラーが何故か自信満々に胸を張った。
全員可愛いから出て行きなさい、と部屋から追い出される。
やったー!かわいいって!などと皆喜んでいるが、これは体よく追い出されたというような気がする。
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