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6 遺跡の探索
すっかり日が高くなる頃、遺跡の入り口に着いた。
鬱蒼とした森の中に佇む遺跡は雑草や蔦にまみれていて、入り口から奥は真っ暗で何も見えない。
遠くから聞こえる鳥の声が不気味でいかにもな雰囲気がある。
ごくり、と生唾を飲み込むリリーをよそに探索だ!とラーニッシュはずかずかと遠慮なく入って行った。
「ここには何度も来た事がある。危ないものはないし、魔物の出入りも少ないから問題ない」
そう言うとヴィントはすっと指を動かした。
壁に沿って外灯が設置されているらしく、指先から放たれた魔法で火が入る。
内部が照らし出された遺跡は少し埃っぽいが綺麗に積み上げられた石壁と、どこかに通気口があるのか冷たい風が入りこみ歩きやすい。
「何度も来た事があるのにまた行くんですか?」
「まだ探索してない所があるかもしれないだろ」
とラーニッシュ。
……本当だろうか?
「そんな所はない」
言い切ったヴィントは小声で付け加えた。
「満足したら帰るだろうから子守りと思えば良い」
「子守り言うな!」
聞こえてるぞ!と叫ぶラーニッシュの声が石壁に反射してこだました。
リリーはうわついた心を落ち着かせようと大きく息を吸って吐く。
故郷の惑星ティースではほとんど外に出ず過ごした為こんなに長く出歩くのは初めてだし、本で見たような遺跡に入れるなんてまるで夢のようだ。
……失敗したり足手まといになったりしないようにしなければ。
自分を落ち着かせるために話を振った。
「私、魔物って……本でしか見たことないです」
「人より大型で攻撃的な動物のようなものだ」
答えるヴィントに、
「大人しくて攻撃してこないタイプもいますよ。火を怖がるので人の住処を襲ってくるのは稀です」
トルカが付け加える。
「このあたりはあらかた大型の魔物は倒してしまったからなぁ。退屈だ」
先頭を歩くラーニッシュが言った。
……退屈しのぎに魔物と戦わないでほしい。
「魔獣……も出ますか?」
先頭のラーニッシュが歩みを止めて言う。
「やつらは……もういない。魔王を封印した時にな。一緒に封印した」
魔王の話。
すっかりどこまで真実なのか聞き出しそびれてしまったが、やっぱり雲に封印されているという話は大筋合っているらしい。
聞いても良いのだろうか?隣を歩くヴィントを見た。
外灯の炎を映し出して橙色に揺らめく金の瞳と目が合った。
「王が魔王を封印した時の話か?」
「ええと……」
聞いても?と問いかけると再び歩き出したラーニッシュが答えた。
「聞くも何も……とんでもねぇ野郎だったからあのピンクのゆめかわふわふわ雲に押し込めて封印しただけの話だぞ」
「ピンクのゆめかわふわふわ雲……」
ぐふっと笑いが漏れてリリーは口を覆った。
確かにゆめかわなふわふわ雲で表現は的確だが何であんな事になったのだ。
何とも度し難いという顔をしたヴィントが、
「奴は人の恐怖や不安……嫉妬などという負の感情で強くなるからな。あれを見ても恐怖心など抱かないようにということらしい」
と言った。
何だか気の抜けるゆめかわにはきちんと理由があるらしい。
「確かに……あれを見ても怖いとは思わないかも……」
「あの雲はですねえ、大魔術師クルカン様が魔法で作ったんですよ!」
前を歩くトルカが振り向きざまに目を輝かせて言った。
大魔術師クルカン。初めて聞く名前だ。
「王様とヴィント様が魔王を追い詰めてクルカン様の雲に閉じ込めて、世界は平和になったんですよー」
とトルカは続けて言う。
クルカンには会った事がない。エライユのどこかにいるのだろうか?
「すごい大魔術師様なんですね……」
「奴の大魔術師は自称だからな」
ラーニッシュが振り返らずにひらひらと手を振る。
「自称……」
「面白い大魔術師様でしたよねー!虫が大嫌いで、初めてここに来た時も落ちてきた蜘蛛にびっくりして入り口ふっとばしちゃったんです」
「えぇ……」
「その後に補修したからここの入り口は綺麗なんだ」
ヴィントの説明にはは……とリリーは乾いた笑いをこぼした。
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