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「まったく、後継者にすると言っておきながら、なんて真似を! 長年尽くしてくれた弟子にすることかね」と、堂島が苦々しげに言った。
「村上さん、あなたは芸術家なんですね。芸術家にとっては、作品がすべてだ。あなたは芸術家として、青嶋薫子が許せなかった……。それと、記念すべきデビュー作品のモチーフに選ぶくらいだ、アゲハチョウには特別な愛着をお持ちなんでしょう」
「私の実家は、レモンの栽培をしているんです。アゲハチョウって、幼虫がレモンや蜜柑の葉を食べてしまうから、農家にとっては困り者なんですが、羽化して自由に飛びまわれるようになると、やっぱり綺麗だなって、そう思うんです」
村上朋佳は遠い彼方を見つめているかのような目をして答えた。
「では、後のことは警察におまかせします。ああそうだ」
柏木は再び村上のほうに向き直って言葉を続けた。
「村上さん、そのドレス、ご自身がフィナーレで着るためにデザインされたんでしょうね?」
「ええ」
「よくお似合いですよ。やはり、それはあなたにこそふさわしい」
「ありがとうございます」
肩に蝶を留まらせたまま、村上朋佳は晴れやかに微笑んだ。
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