冬の蝶

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 若松は腕組みをしたまま、いらだたしげに一言だけ答えた。リゾート開発を手がける不動産会社を運営しているが、強引な手法は非常に評判が悪い。身に着けているのは濃紺の地に極太のストライプが入ったダブルのスーツ。デザイナーの夫にこれほどふさわしくない服装も珍しい。青嶋と若松はどちらも三度目の結婚だったが、不仲なことは周知の事実だった。 「で、堂島さん、これは殺人事件なんですよね?」と、舞台監督の蓮実がしびれを切らしたように言った。 「まだ断定はできません」  堂島はなだめるように答えたが、蓮実はさらに食い下がった。 「いやいや、彼女は心臓病で、しかもひどい蝶嫌いだった。彼女に蝶をけしかけて、発作を起こさせたやつが犯人に決まっている。で、ここに集められた我々がその容疑者ってわけだ」 「ああ、それなら僕は無関係ですね。薫子さんが蝶嫌いだなんて、まったく知らなかったんだから」  同意を求めるように周囲を見まわした堀田に、蓮実は皮肉な笑いを向けた。
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