冬の蝶

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「気の毒だが、そうはいかないね。誰かに依頼された可能性がある。マジシャンなんだから、蝶を操るくらいわけないだろう。だいたい、ファッションショーにマジシャンが出るなんて、妙な話だ。出演が決まったのも急だったし……」 「言いがかりはやめてもらいたいね。僕を呼んだのが薫子さんだってことは、あんたも知ってるじゃないか!」 「ふん、こいつは俺を疑っているのさ。お前を薫子に紹介したのは俺だからな」  若松が客席から蓮実をにらみつけながら言った。 「そんな、冗談じゃない」と、堀田が甲高い声で叫んだ。 「まあまあ、我々は事実確認を行なっているだけですから、どうかそのへんで」  堂島が割って入ったところに、鑑識官の前園が、三角形に折ったパラフィン紙に入れた黒い揚羽蝶を運んできた。 「柏木先生、ご無沙汰しています」 「同じサークルにいた仲間じゃないか、先生はよしてくれ。堂島警部補にもお願いします。ゼミの学生だって、僕を先生なんて呼びませんよ」 「わかりました。では柏木さん、早速ですが、これが問題の蝶です」
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