冬の蝶

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「それはまだ何とも。この蝶は、雌に毒蝶のベニモンアゲハに擬態しているタイプと、擬態していない通常型と、二つのタイプが存在していることで有名なんですが、これは雄だし……。ところで前園君、翅からトリカブトが検出されたそうだけど、心臓発作との関係は?」 「ありませんね。付着していた全量を経口摂取しても、致死量の十分の一にもならない。少しばかり吸い込んだところで、逆に強心剤になったくらいのものでしょう」 「トリカブトって薬になるのか? それも心臓の?」と堂島が意外そうに言った。 「ええ、漢方薬としてよく使われますよ」 「毒と薬は紙一重ってやつだな……」 「しかし、なぜトリカブトが蝶に? それも、毒にもならないほど微量の。もっとも、あのやり方で口に入る量なんて、どうせ高が知れている……」と、柏木は首を傾げながらつぶやいた。 「村上さん、蝶嫌いの薫子さんが、なぜ蝶をテーマに選んだんですかね?」 「それは私にはわかりません。でも、あくまでデザインですから、実際の蝶とは関係ないんじゃありませんか?」 「そういうものですか……」
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