冬の蝶

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「彼女、子供のころ蝶にさわって、鱗粉にかぶれたせいで苦手になったんだそうです。実物でなければ平気だったんじゃないですかね」と蓮実が言った。 「薫子さんはいつごろから心臓が悪かったんですか?」と柏木が山倉に尋ねた。 「心臓に先天性の小さな欠陥があって、若い頃から不整脈による動悸や息切れに悩まされていたらしい。悪化したのはこの十年。加齢とストレスのせいだろう」 「先生はいつから薫子さんの主治医を?」 「二年前の心臓手術の後、彼女がリハビリを始めた時からだよ。私はこの近くで内科クリニックを開いていたんだが、ちょうどその頃、長男に跡を継がせてね、自分は古馴染みの患者の往診に専念することにしたんだ。その古馴染みの一人が、彼女のことを相談してきたというわけさ」 「主治医として、彼女のカムバックをどう思われました?」 「もちろん反対したよ。デザイナーなんて、ショーが迫ってくれば徹夜が当たり前の激務だ。心臓疾患を抱えて耐えられるはずがない。村木さんのような優秀なスタッフがいるんだから、当初の予定通り、社長業に専念すればよかったんだ」  堂島が若松に言った。
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