冬の蝶

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「当時はまだ小さなブランドだったはずなんですが、社員の募集があったんですか?」 「いえ、学生の時アルバイトでショーのお手伝いをしていて、声をかけていただいたんです。卒業したらこちらに来るように、と」 「才能を見込まれたんですね」 「それはわかりませんが、とにかく色々と教えていただきました」  堂島は村上への質問を終えると、柏木に声をかけた。 「柏木さん、他に何か気になることはおありですか? そろそろ舞台に戻ろうかと思うんですが」 「ええ。例の二人がもめているかもしれないし、これ以上待たせるのはまずそうだ」 「それにしても、涙を流す者が一人もいないんですからねえ」と、前園がため息まじりに言った。  現場検証の後、堂島と前園、柏木の三人は、イベントホール近くの喫茶店に立ち寄ってコーヒーを飲んでいた。村上朋佳がジュースの出前を頼んだ店で、注文の電話が入った時刻も、ジュースを届けた時刻も、村上の証言と完全に一致していた。  堂島はゆっくりとコーヒーを啜りながら言った。
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