冬の蝶

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「武士はショック死だとしても、蝶の死に方ときたらわけがわからない。昆虫学者として、合理的な説明はお持ちですか?」 「いいえ。蝶が暴れまわる人間の鼻の孔に入って死ぬなんて、とてもじゃないがあり得ない。お手上げです。話をしてくれた門脇君によると、江戸の奇談というのは、これこれこういうことがあったと、ただ事実と称する事柄を淡々と述べて、いきなりぷつりと終わるものが多いらしい。彼に言わせれば、その浮遊感のようなものが一種の魅力なんだそうです」 「ははは、すみません、私にはなんのことやら……」 「僕もです。とにかく変わっていたな、彼は。時代や洋の東西を問わず、あらゆる奇譚、怪談を読み漁っていたっけ」 「確かに不思議な人でしたね。僕、門脇さんの下宿に遊びにいったことがありますよ。アナログレコードのコレクションがすごかったな。キングクリムゾンのファーストアルバムを、その時初めて聴いたんです」 「おっいいぞ、前園、お前も青春していたんじゃないか、オタク同士って感じはするが……」 「警部補、そのオタクっていうの、やめてください」
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