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冬の蝶
二〇二三年一月二十八日、青山のイベントホールでは、春夏オートクチュールのファッションショーが行われていた。ブランド名は〈メゾン・カオルコ〉。一片の蝶の翅を身体に巻きつけたような斬新なデザインのドレスが観衆を魅了し、ファッション誌のライターや評論家の居並ぶ記者席では、次のようなささやきが交わされていた。
「しかし驚いたな。青嶋薫子、奇蹟のカムバックだ」
「ああ、心臓発作で活動を休止して二年か……。我々も観客も今回のショーには好意的だったがね、まさかこれほどの出来とは」
「六十一歳で、モチーフの蝶さながらの大変身ときた。さすがはファッション界の女帝。恐れ入ったね……」
「今期のコレクションは、メゾン・カオルコがダントツだな」
「ああ」
「お、いよいよフィナーレだ」
管弦楽用にアレンジされたサティのジムノペディ第一番が流れる中、クロアゲハをモチーフにしたドレスを身に纏った青山薫子が、満面の笑みとともに観衆の前に進み出た時、風に弄ばれる枯葉のようなものがひらひらと舞い降りてきた。
それは一匹の、黒いアゲハチョウだった。
「真冬に本物の蝶とはね。凝った演出をするじゃないか」
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