冬の蝶

28/35

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「琉球大の研究室から送ってもらって、二日間、僕の自宅で飼っていました。うん、どれも元気そうだ。幼虫や蛹の状態で運んでくれば、さらに長期間の飼育も可能でしょう。まあ、暖房代はかさみますが」 「季節外れの蝶が出現した謎は解けましたね」と堂島が言った。 「あとは、蝶がうまく動いてくれるかどうか……」  前園の言葉に、柏木は自信ありげにうなずいた。  軽快なBGMの音量が下がり始めると、柏木はシロオビアゲハを宙に放ち、舞台裏から花道の左下側に向かった。  程なく村上朋佳が舞台奥に到着し、サティのジムノペディ第一番が静かに流れ始めた。舞台の大半の照明が消され、舞台中央を照らすスポットライトだけが残されている。人々が見守るなかで、蝶はひらひらと左右に揺れながら上昇し、ゆっくりと村上に近づいていった。  舞台の中央は緩やかな上りのスロープになっていて、彼女が前進するにつれて、漆黒のドレスを纏った姿が、頭の先から徐々に人々の視界に入る仕掛けになっていた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加