冬の蝶

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「薫子さんが香水の匂いに気づかないようにするためです。彼女はムスク系が好みだったそうですから、匂いに気づくと香水をつけ直してしまう心配があった。いずれにしても、匂いだけではアゲハを唇まで誘導することはできません。そこで、第二の手段がこれです」  柏木はそう言いながらコートの内ポケットから懐中電灯のようなものを取り出すと、村上のほうに向けた。途端に、彼女の唇は鮮やかな青い蛍光を放った。 「UVライトです。僕は今、花道の下から村上さんの唇に紫外線を照射していました。通常のUVライトは紫外線だけでなく、紫の可視光線も出しているので、それをカットするフィルターをつけてあります。これなら客席で使っていても誰にも気づかれないでしょう。ちなみに、ライト本体もフィルターも市販品です。UVライトは血痕の検出にも使われているから、前園君に頼めばすごいものが借りられたでしょうが、民間人の手には入りませんからね。海外製で、説明書にサソリを見つけ出すという用途が載っていたのには笑いました。
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