冬の蝶

32/35

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「当然です。自宅からアトリエまで徹底的に調べますよ。若松さん、その際はご協力願います」 「ああ、構わんさ。別にあれと同居していたわけでもないしな」と、若松が答えた。  柏木は村上のほうに向き直ると、穏やかに声をかけた。 「と言うことです。村上さん、いかがでしょう、そろそろ真相をお話しいただけませんか?」 「わかりました。すべてお話しします」 村上朋佳は微笑みを浮かべたまま答えた。 「ええ? そんな……」  前園は拍子抜けしたような声を上げると、村上と柏木の顔を交互に見つめた。 「もともと、村上さんは自分の犯行を隠すつもりがなかったんだよ」と柏木は言った。 「彼女の望みは青嶋薫子が自分のデザインを盗んだ事実を明るみに出すことだけだった。蝶を操る方法さえわかってしまえば、村上さんが犯人であることは明らかだ。ドレスにハイビスカスの香水をつけたり、芳香剤をこぼしたりできるのは彼女だけだからね。レモンジュースを出したのも、蛍光物質を含んだ口紅を確実につけさせるためだろう。控室のメイク道具の中に、口紅は一種類しかなかった」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加