冬の蝶

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「いえ、読みの組み立て方から、他の部員とは全く違っていたということでした。あいつはオタクですが、研究者としての目は確かだ。そこは信用しています。どうでしょう、ここは彼の顔を立てて、お引き受け願えませんか?」  柏木は小考の後に答えた。 「わかりました。どれだけお役に立てるかわかりませんが、お手伝いさせていただきます」 「助かります! いやあ、有難い」 「いえ、お話をうかがっているうちに、僕も事件に興味がわいてきました。では明日」  翌一月二十九日の昼過ぎ、柏木は東大弥生キャンパスの研究室を出て、千代田線根津駅から地下鉄を乗り継いで青山一丁目に着くと、青山通りを事件現場のイベントホールに向かって歩いた。昨夜来の雪まじりの雨はすでに上がっていたが、プラタナスの街路樹の骨ばかりの枝先からは、冬の昼下がりの日差しを受けた雫が時折したたり落ちていた。 「冬の蝶、か……」  柏木は緩みかけたマフラーを巻き直しながらそうつぶやいた。  ホールのエントランス前の道路には、屋根に回転灯を載せた捜査車両が二台停められていて、呆れるほどの人数の報道陣に取り囲まれていた。
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