冬の蝶

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 もっとも、これらの車両はいわば囮で、事件関係者は警察側が用意した車でホール裏手の搬入口から入場を済ませており、柏木もまた、手はず通りホールの裏手で待ち受けていた案内役の若手刑事に導かれて、誰にも気づかれることなくホールに入ることができた。  甲田と名乗った若い刑事は、柏木を堂島がいる舞台に案内しながら、会場の造りを手短に説明した。 「こちらがスタッフとモデル達がいた楽屋、隣の小さいほうの部屋は青嶋薫子が控室として使っていました」 「彼女は一人で?」 「ええ、アシスタントデザイナーの村上朋佳が時々出入りしたそうですが、基本的には一人でいたようです」  柏木が舞台袖に着いた時、堂島は照明の当たった舞台の中央で、現場検証のために集めた人々と言葉を交わしていた。四十五歳、空手二段の猛者で、身長一八〇センチ、体重八五キロの頑健な体躯の持ち主だ。 「ああ、柏木先生、お待ちしておりました。皆さん、こちらが東京大学応用昆虫研究室の柏木准教授です。ご承知のように今回の事件はアゲハチョウと重大な関係がありますので、専門家のご協力を仰ぐことに致しました」
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