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プロローグ
これからご覧いただくのは、気鋭の昆虫学者、柏木祐介氏が解決した難事件の記録である。彼の本業は言うまでもなく昆虫の研究であり、犯罪の真相究明にこれほどの適性と才能を示すとは、当人も意外だったに違いない。
最初の事件を解決した時は、これはたまたま昆虫が犯行に用いられたごく稀な事例であり、警察の捜査に協力するのは一度限りの出来事だろうと彼も私も考えていた。ところが実際には、彼が解決した事件はすでに六件に及んでいるのである。
柏木氏は研究者の本能に基づいて、それぞれの事件に関する克明なノートを残していたが、もとよりそれは断片的な覚え書きにすぎない。せっかくの興味深いエピソード、彼の見事な推理が世の人々に知られることなく埋もれてしまうの重大な損失だと考えて、私は彼の活躍を文章にまとめることにした。
ここに書かれた内容にはいささかの誇張も脚色も施されていないことを、あらためて強調しておきたい。したがって、私が何者であるかはさほど重要ではない。それについては、この記録を最後まで読み通してくださった方にだけ、そっとお伝えすることにしよう。
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