「先生」の背中

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「やっぱりここにいたのか」  昼休みの図書室は、一日の中で一番人が多い。僕が予想した通り、彼は植物図鑑のコーナーにいた。 「ああ、君は案外鋭いね」 「祐也の行動は大体分かってるつもり。どうせまた、『謎解きには知識から始めよ』とか言うんだろ?」 「ご名答」  得意気に答える祐也は、すでにホームズになりきっている。  つくづく、祐也を乗せるのは簡単だと思う。不思議な謎をポンと出せば、すぐに活き活きと瞳が輝きだすから。 「で、何か分かった?」  僕は、『花の図鑑』を片手にページをめくっている祐也に問う。彼は、真剣な眼差しで図鑑を読んでいる。僕の知る限り、祐也はかなりの読書家で1ヶ月に20冊もの本を読んでいる。たとえ図鑑であっても、頭の中に情報を入れるスピードは凡人の僕には計り知れない。 「ああ、なんとなく、朝顔ってこういう花なんだってのが分かった」 「ふーん。それで、謎は解けたの?」  僕の言葉に、彼は心外だというふうにじっとりとした目を向ける。 「いやいや、冗談を言うんじゃないよ。これだけで分かるわけないじゃないか」  呆れてため息すら漏らしている祐也を見ていると、なんだか自分が馬鹿にされたみたいで心地悪い。 「それで、これからどうするつもり?」 「まあそう焦らないでくれワトソンくん。そうだな、とりあえず現物を見にいくしかないな」 「現物って、朝顔のこと?」 「そうだよ。まずはこの目で確かめないと。とういうわけで、放課後中庭に行くよ」 「はいはい」  一度謎の解決に夢中になると、とことん突き詰めなければ気が済まない祐也のことだ。今日はいつも通っている駄菓子屋に行くのも諦めなくちゃいけないだろう。  僕は、きらきらとしたまなざしを崩さない祐也のペースにすっかり乗せられてしまうのだ。
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