「先生」の背中

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「じゃあこれから、僕の推理を話すね。この朝顔の持ち主は、小学2年生の男の子だ。裏はとってある。この間、職員室で2年生の先生たちに聞き込みをしたから。ほら、鉢植えに名前だって書いてある。『みどう かける』って」  そう。鉢植えにはちゃんと持ち主の名前が記載されている。だから朝顔の持ち主がみどうかける君という少年だというのはすでに知っていた。 「よく伸びる朝顔の真相——それは、朝顔の持ち主であるかける君が、毎日朝顔の鉢植えごと持って帰って、また新しい鉢植えを持って来ていた(・・・・・・・・・・・・・・・・)からだ」 「え? どういうこと?」  祐也の言っていることの半分も理解できない。鉢植えを持って帰ってまた持ってくる? 「ちょっと説明が足りなかったね。かける君は、家で同じ朝顔をいくつも育てているんだよ。それも、時間差でね。芽が出ているものから、蔓が1メートル以上伸びたものまで、各種取り揃えてある。朝顔を観察していたら、花や葉のつき方が少しずつ違っていたから気づいたんだ。今日の朝顔は、昨日の朝顔とは別物なんじゃないかって。それでも、かなり似ているものだけれどね。それと、他の朝顔と品種が違うことも分かった。他のみんなの朝顔は日本朝顔。比較的ゆっくりとした成長速度なのが特徴。で、かける君の朝顔は西洋朝顔っていって、日本朝顔より成長スピードが早いんだ。葉の表面の毛がなくてつるつるしてるから、これも見ただけで分かった。まあ、最初に図鑑を見て勉強したからだけどね」  糸が解けるようにするすると推理を口にする祐也。僕は、ただただ祐也の観察力に脱帽する。僕は、祐也と同じように朝顔を観察していたのに何一つ気づかなかった。 「それとあと一つ。かける君の朝顔の鉢の裏にはナメクジがついていない。それは、彼が頻繁に鉢植えを移動させているからだと気づいた」 「あ——」  僕は、自分が低学年の頃に鉢植えの裏についたナメクジを見て卒倒したことを思い出す。あの思い出すら、祐也は推理の糧に変えた。 「これが、よく伸びる朝顔の真相。何か、気になることはある?」  祐也の二つの瞳が僕の目をとらえて離さない。僕は、だんだんと呼吸が荒くなるのを感じた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加