今年もその季節がやってきた

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今年もその季節がやってきた

 現場は多摩市の団地群の中にある一階の庭だ。  この団地はそれぞれの庭は一階住民が管理をすることになっている。  でも、なぜか101号棟の住民は少なくとも管理と呼ばれることをしてくれない。  団地の規約でも、庭は常に手入れをして、他人の迷惑にならない様書かれているのに。  隣室の住人や、上階の住人が洗濯物をとりこもうとする時に、 「あぁ、またこの季節がやってきた。」  と嘆くのだ。  昨年は秋の遅くに一度業者を頼んで刈ってくれた後、雑草がのびてこなかったので、皆、 「ようやく除草剤を撒いてくれたんだ。」 「やっと、わかってもらえたのね。」  と、101号室の方だけが欠席している年末の大掃除の時に話していたのに。  単に、業者さんが根っこの方まで刈ってくれていたので、冬の間生えなかっただけの様だ。    春になったら、勢いよくのびる。のびる。  雨が降ったらさらにのびる。  そして、いきなり穂が出て、穂は銀色に光りながら風にざわめいていたかと思うと、綿毛に変身し、綿毛に種をつけて隣家や上階の家の洗濯物にくっつくのだ。  今にパンツから「チガヤ」が生えてくるのではあるまいか。  隣家である鈴木家では毎年チガヤの芽が生えてくるたびに雑草取りに負われている。  上階のプランターにも生えるというし。  まるで侵略者の様に。  雨とお日様の恵を浴びて。  草丈がのびて、穂がのびて 種を作り 風に乗り、子孫を増やしていく。  まるでエイリアンのようなこの「チガヤ」という雑草。    鈴木星の住人は人間の姿と似ているので、今、自分たちが住めそうな星を探している。人数が増えすぎてしまったのだ。  階段の行事に全く参加しない101の住民と一緒に駆除してほしいと最近、102号室の鈴木家では、空と交流しながら惑星の空母に相談をしている。  そうしないと、鈴木家の住民の親戚が住む星まで「チガヤ」が浸食しそうだから。 【了】
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